Tuesday, November 23, 2010

Waka Flocka - Flockaveli & Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy



あまりに退廃的で狂った世界をつくりあげるLex Lugerのビートと、荒削りという以上にその荒々しさがオーラとなって降りてきているWaka Flockaのラップ。そのコンビネーションは、"まったく中身がない"暴力賛歌をベースに進行しながら、どうしようもないゲットーで生きるどうしようもない若者がどんづまりで拳銃を振り上げなら行進する姿そのものを照らし出す。

アルバム中、「唯一テーマがある」と言われる"Fuck This Industry"ではWakaが銃撃に倒れて病院に運ばれたときにも一切関知しようとしなかった音楽産業を徹底的にこき下ろしているし、質も内容もいままでのミックステープとほとんど変わらない。そんなレーベル側からまったくコントロールを受けないままリリースされた『Flockaveli』には、 Wakaが溜め込んだフラストレーションだけがパッケージングされているので、ミックステープの持つ"猥雑さ"に魅力を感じるリスナーにとって、これほど生々しく心に響いてくる商業作品は他に見当たらないだろう。

しかし、メッセージ性の欠片もない『Flockaveli』に限らず、アンビエントから浜崎あゆみまでをジャックしてしまうLil BのBasedを聴いていても、ウィッチハウスとも微妙にシンクロするOdd Futureなどのローファイムーブメントを見ていても、もはや「ヒップホップとは何か?」という命題に取り組む姿勢には何の意味も無いように思えてしまう。ヒップホップの様式や美学に捕われている人間はいないんじゃないかと錯覚してしまうほど、若手のアーティストは皆が皆、DIYの精神を持って自由な解釈でヒップホップを作るようになった。

2年前の『808s And Heartbreak』はチープなサウンドと歌唱を軸に添えながら、ルサンチマンを溜め込んで自己の内面に没入していく、それまでのラップミュージックの枠組みから外れたとても先鋭的な作品だった。「内省的なイメージで売ろうとする黒人アーティストはポップフィールドではいなかった」という指摘も当時あったように、『808s And Heartbreak』はDrakeのような黒人ラッパーがナーヴァスな世界を展開しながらもヒットチャートにランクインする時代の先駆けとなった作品とも言えるし、それこそ、このチープな音と歌で彩られたイビツなヒップホップが自由な発想のもと作られるその後のヒップホップの形を大きく変えたのは明白だ。

Kanye Westの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は『808s And Heartbreak』の延長に位置するアーティスティックな作品で、製作に3億円かかったというスケールも含め全く引けを取らない。膨大な量のサンプリングと、元ネタを華やかに演出するオーケストラの迫力だけでも充分物凄いが、クラップ音だけのためにハンドクラップ奏者を4名も雇い入れ、RihannaやAlicia Keys、The-Dreamといった大物シンガー達にコーラスだけさせてゲストクレジットも残さないという起用には「無駄遣い」という言葉までよぎる人も多いだろう。しかも、そこまで金をかけて奏でられる音にはチープなコーティングや質の悪い低音がのっけられ、ひずんだ音像になるようにミックスされていて、インディペンデントミュージックの持つ"チープ感"とシンクロした現時代性までもを獲得している。ここで凄いのは、DIYでつくられるヒップホップとは真逆に、金と人材と手間をかけまくることでつくりあげた"チープなヒップホップ"が、インディペンデントミュージックの持つイビツさをより立体的に浮かび上がらせているところだ。

意図的であるにしろないにしろ、『808s And Heartbreak』が「ヒップホップとは何か?」という問いを突きつけたからこそ、いまの新たな表現――ポップフィールドで見かけるアーティスティックで内省的なヒップホップやインディペンデントシーンに広がるプリミティブなヒップホップ――が出来上がった。『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』はチープで90年回帰的な"いまのヒップホップの姿"を屈折させることで「ヒップホップとは何か?」を改めて問いかける。もはやヒップホップの様式や美学に捕われることはナンセンスに思えてしまうこんな時代でも「これからの時代のヒップホップはどうあるべきものなのか?」を考えさせ、さらに"次の時代の扉"を開こうとする Kanye Westのビジョンと貪欲さには感動を覚えずにいられない。

Sunday, September 12, 2010

Odd Future Wolf Gang Kill Them All

Photobucket

00年前後に支持を集めてムーブメントを起こしていたアンダーグラウンドヒップホップが03年ごろを境に失速し、廃れていってしまった原因は幾つも考えられる。アマチュアの増加に伴う粗雑な作品の乱立。方向性を見失ったプロダクションのマンネリ化。ファンコミュニティや通販サイトの閉鎖etc...

何より、メインストリームの"カウンター"であったはずのアンダーグランドヒップホップが、その意味を持ちえなくなってしまったことが失墜の最大の原因だろう。アーティストの意向よりも、金儲けが優先され、クリエイティビティを失った商業主義的なヒップホップに対するアンチテーゼ。それこそが、アンダーグラウンドヒップホップの最大のモチベーションで、最大の存在理由だったはずなのに、Jay-Zの"The Blueprint"あたりを皮切りにメインストリームヒップホップは矜持を取り戻し、アンダーグラウンドヒップホップはアマチュアの手垢にまみれた多くの駄作と一緒に沈んでいった。

思い返せば、アンダーグラウンドヒップホップの金字塔"Hip-Hop Music for the Advanced Listener EP"がリリースされたのが98年。当時、Anticonが「オルタナティブヒップホップのさきがけ」として注目を受けたのは、ポストロックに影響を受けたその独特な音楽性に拠るところが勿論大きいけども、"Anticon"というクルーそのものの特異さが引き金となっていたところも見逃せない。

東海岸、西海岸、中西部、カナダの各地方のヒップホップオタクがインターネットで繋がって97年に結成されたAnticonは、ポストロックやエレクトロニカを混ぜ合わせたり、ラップではなく鼻歌をビートにのせたりしながら、これまでにない斬新な発想のヒップホップを作り出していた。しかしながら、彼らが同時代の他のグループと比べてさらに変わっていたのは、その独特な音楽だけでなく、デザイン画や風景写真でつくられたジャケットや、Tシャツやキャップなどのファングッズ、広告/流通を含めて全て自分達の手でクリエイトしていたところだ。

「Independent As Fuck」という言葉はその数年前にCompany Flowが使っていたものだけど、DIYで音楽を作りながらヒップホップ概念を覆し進んでいくAnticonというクルーは、まさに商業の流通にのってパッケージ化されていくヒップホップに対するカウンターそのものだった。「ヒップホップとは何か? 本当のクリエイティビティは何か?」を問いかけていたAnticonの影響力はすさまじく、ナードラップと呼ばれる同じ音楽性を持つ作品がたくさんリリースされた。その後の失墜は先に書いたとおり。


話はここで少し変わるけども、以前にレビューでも取り上げたLil Bの影響を受けたアーティスト達が増えてきているらしい。たとえば、Tyler, the Creatorを中心として、Earl Sweatshirt、Domo Genesis、Hodgy Beatsといったラッパー/トラックメイカー~イラストレーターまでが集うOdd Future。Tumblrからいままでにリリースされたアルバムやミックステープをダウンロードできるが、彼らの音楽にはLil BやWaka Flockaなどの新進気鋭アーティストの影響だけでなく、MF DoomやNecroやAesop Rockに比較されることからもわかるように往年のアンダーグラウンドヒップホップと同種の雰囲気をまとっているところが大きな特徴だ。

それこそ、猟奇的なレイプを妄想してつくった曲や、世の中に対する不満を「FUCK」で埋め尽くす曲、自分を見捨てて去っていった父親に対する怨みをぶつける曲など、10代のラッパーならではのフラストレーションが噴出したラップが多く、描かれる"世界"の捉えどころのなさも00年アンダーグラウンドヒップホップに近いものがあるが、彼らはまだ10代のキッズであること、そして過去のヒップホップ知識をそれほど持っていないことを考えても、00年アンダーグラウンドから影響を受けたわけではないところが興味深い。あくまでOdd Futureは、"いまの時代のヒップホップ"をインターネットツールだけでなく、動画編集ソフトやアートツールを駆使しながらクリエイトしている。

Tyler, the Creatorは古臭い中年ラッパーをDISったりしているけども、実際、CD媒体や金をかけたPVや広告/流通とのコネクションなど既存の枠組みに捕らわれながら窮屈にヒップホップをつくっているアーティストや組織すべてに対する"カウンター"となっているのがOdd Futureというクルーだ。過去のヒップホップが持っていた"DIY精神"が、インターネットで手軽に広げられる流通やアートワークや映像の分野まで範囲を広げ、20代をこえたインテリやナードだけでなくストリートの子供にまで根を下ろすようになってきた。

いまの時代、キッズだけでも集まれば自由にヒップホップをクリエイトできる。いままで様々なアーティストが商業主義のヒップホップへ自主制作精神で対抗してきたが、Odd Futureの存在は"商業主義"だけでなく大人たちの作ってきたヒップホップ自体に問いを投げかけている。









西海岸ローファイ新世代

■ Tyler, the Creator "Bastard" : download
■ Earl Sweatshirt "Earl" : download
■ Domo Genesis "Rolling Papers" : download
■ Odd Future "Radical" : download

■ The NRK Compilation : download
■ Δ Vritra/Walter Flowers "The Story Of Marsha Lotus/Technicolour Pyramids" : download

■ Main Attrakionz "808s & Dark Grapes" : download

■ Issue "The E" : download

Monday, July 19, 2010

『日本語ラップ.com』管理者にインターネットから産まれる日本語ラップシーンについて訊いてみた

アーティストが自らの曲をリスナーに簡単に視聴してもらえるようにYouTubeやMySpaceを活用する。それだけではなく、誰でもすぐにiTunesに入れて楽しんでもらえるようにオンラインストレージサイトに作ったばかりの音楽ファイルやミックステープをアップロードする。他のアーティストがつくった"イケてる"曲をジャックして、新しい曲に作り変えて自分のスタイルをアピールする。そして、ジャックした曲のコンセプトにのっかってラップで遊ぶ。2010年に入り、インターネットをベースとしたムーブメントが少しずつ広がりを見せていますが、それはフリー音源やYouTubeリンクなどの情報をリアルタイムで発信する一部のTwitterアカウントやニュースサイトにアクセスできている人たちの間で"一般的"になっているものに過ぎず、「いまインターネット上で起きていること」を私たちに紹介してくれるメディアはほとんど存在しません。

今回の記事は、『日本語ラップ.com』の管理者であるBenzeezyさんに声をかけさせていただき、実現した対談形式のインタビュー記事です。日本語ラップの若手アーティストを中心に広がりを見せるこのムーブメントを追って、ホットな情報を届けてくれる数少ない貴重なニュースサイト/Twitterアカウントを更新されているBenzeezyさんがこの新しい時代の日本語ラップをどのように捉え、そこから産まれてくるものの未来をどう見据えているのか。インターネットから産まれるアーティストの才能やシーンに関する考察を交えてインタビューを取らせていただきました。

<日本語ラップ.com>
(HP)http://nihon5rap.com
(Twitter)http://twitter.com/benzeezy


――現在の日本語ラップシーンで、特に若手のアーティストの情報を得られる場というものがなかなかありません。それこそTwitterを見てみても若手アーティストの情報がほとんどない。SEEDA以降、ハスラーラップ以降の日本語ラップシーンのなかでもスキルや高いクリエイティビティをもったアーティストはたくさんでてきているはずなのに、そこに目を光らせて情報を発信しているメディアが皆無なのが現状なわけです。一番フックアップできていたのがSEEDAの『Concrete Greeen』という。そういった中で、Twitterを上手く活用しつつ、こういうポータルサイト(日本語ラップ.com)で若手アーティストの情報や楽曲をアップして、明確に若手フックアップに力を注いでいるメディアはとても貴重だと思い、声をかけさせてもらいました。そこでまず、Benzeezyさんが『日本語ラップ.com』を立ち上げることとなったきっかけを教えてもらいたいのですが。

Benzeezy:僕自身1997年頃まではUS、日本を問わず聴き漁る相当なヒップホップヘッズだったのですが、ビッグビート等の新しいと言われていた音楽に出会ってからは、日本のヒップホップから遠ざかっていました。2007年頃、人づてに聴いたSEEDAさんの『花と雨』で日本語ラップのレベルが向上していた事を体感し、再び日本語ラップに興味を持ちました。SEEDAさんやその周辺の方々をDIGして、過去作品はもちろん、シーンで「ドープ」と言われているアーティストも全てチェックしてましたね。また、当時良い意味でMySpaceがとんでもない事になっていたので、ドープなアーティストをひたすら探し回り、チェック(視聴)出来る作品はほぼ全て聴かせて頂きました。そしてそれ以降、僕のアンテナに引っ掛かるアーティストの作品がリリースされれば購入したり、試聴する事を繰り返していました。特に、シーンから音楽性もアティテュードも頭二つ程飛び抜けていたSEEDAさんの動向は気になりましたし、常に追い掛けていました。

――なるほど。USメインストリームを意識したラップのスタイルやビート、リアル志向のリリック、若手のフックアップなども含めてSEEDAが日本語ラップにもたらしたものは非常にたくさんあります。BenzeezyさんはSEEDAのどういった部分を注目していたのですか。

Benzeezy:2009年2月にSEEDAさんとOKI(GEEK)さんの『TERIYAKI BEEF』がSEEDAさんのブログ上で発表されましたが、これが特に面白かったですね。SEEDAさんが当時MySpaceに『TERIYAKI BEEF』映像をアップロードし、東京ブロンクスさんがYouTubeに同映像をアップロードされていました。過去、日本語ラップシーンでも幾つか"DIS"が存在していたのを認識していましたが、初めてエンターテイメントとして昇華出来たDISという感じで、ヘッズとして単純に面白かったです。SKY BEATZさんのビートをこのタイミングで持ってきたSEEDAさん、映像最後のSDPのDVDリリースPR映像を入れてくる東京ブロンクスさん。そういったセンスも含めて当時感じた事の無い、かなりフレッシュな印象を受けました。こんなフレッシュなシットをもっと世間に広めてみたいと思い、YouTube経由で東京ブロンクスさんにコンタクトをとって、同氏の許可を頂き僕のアカウントへ同映像をアップロードしました。同映像のアップロード後、僕は知り得る限りのネットプロモーション方法を利用し、結果的にSEEDAさんや東京ブロンクスさんがアップロードされた映像よりも僕のアップロード映像が世間には『TERIYAKI BEEF』のムービーとして認知されました。映像の視聴数も含めて。
 そして、それをきっかけとして、『TERIYAKI BEEF』関連の動きがあれば、そのムーブメントを”リーク”という形でYouTubeへ映像や音源をアップロード、PRしていました。SEEDAさんが出演したVERBALさん(TERIYAKI BOYZ)のポッドキャスト番組、同番組内での本人(VERBAL)の前でフリースタイル、同番組収録後のSEEDAさんのコメント映像、そしてフリーダウンロードの"no title"(後の"DEAR JAPAN")などですね。SEEDAさんのアップデートをひたすら追い掛けていました。

――DISといえば、2004年にDev LargeとK DUB SHINEのバトルがあって注目を受けていましたけども、SEEDAとTERIYAKI BOYZのバトルも同じように日本語ラップをあまり聴いていない人にも注目を受けたものですね。この2つのバトルは両方とも"インターネット発"で無料で聴けて、しかもビッグネームというところで色んな人に聴かれていました。ラップで喧嘩するというエンターテイメント性と手軽にコミットできる敷居の低さが、日本語ラップを世間に広めた。そういう意味でも、インターネットで音楽を発信するということの可能性をいち早く示していたものです。しかもSEEDAとTERIYAKI BOYZのバトルはBenzeezyさんが言うとおり、MySpaceやYouTubeやPodCastといったツールを駆使ししたエンターテイメントでしたからね。あたらしい時代の音楽の形が端的にあらわれているものだったという見方もできます。
 そしてこのビーフがあった時期は、SKY BEATZやSDPという名前も出てきましたが、SEEDAの『Concrete Greeen』を皮切りに新しいラッパーやトラックメイカーも次々と出てきた時期でもあります。当時、SEEDAのアップデートを待っていたと言いますが、そのアップデートをフォローするような立ち位置でいたということでしょうか? 当時もWEBZINEやブログなどを含めて色んなメディアがあったと思いますが、他のメディアとのスタンスをどう切り分けていたのかが気になります。

Benzeezy:SEEDAさんの『TERIYAKI BEEF』が『日本語ラップ.com』開設のトリガになったのは間違いありません。微熱さんの仰るように『MySpace~YouTube~Podcast』で情報が発信されている流れが新しく面白くて。ただ、この新しい流れを落としこむ受け皿が無いなと感じていたのもありますね。『日本語ラップ.com』をFeedリーダーに追加してくれているようなヘッズならわかると思いますが、僕は新しいものが好きで、"クラシック"よりも"フレッシュ"先行型なんです。
 日本語ラップから離れていた時分、Dev LargeさんとK-DUB SHINEさんのビーフは耳にしたのですが、それは僕にとって"フレッシュ"な印象を持ちませんでした。このビーフに半ば参戦したSEEDAさんのシットにもそれは感じなかったです。現在もそう思うのですが、関係メディアは情報の量、新鮮さ、そして「ドープさ」みたいなものの扱いには物凄くルーズだった気がします。振り返ってみれば、あのビーフはアーティストはエンタテインしていたのにメディアが追い付いていませんでしたね。完全にアーティストを殺していました。
 『日本語ラップ.com』と他メディアのスタンスの差異は物凄く明解で、『日本語ラップ.com』はひらすら情報をリリース、リークしていくというスタイル。「これドープだからチェックして下さい」という事をただただポストしていく。それも早い段階で。それと、あまり理解されていませんがコミュニティ型のサイトなので、実は誰でもサイトにはポスト出来る仕様です。その為、癒着も可能な限り減らした運営を目指しています。僕のアンテナに引っ掛からない「ドープでないもの」は掲載対象にはなりませんが。

――これはブログだとか、フリーペーパーだとか、金銭の取引や関係者の協力が無い小さなメディアに絞った話になるんですが、以前から「管理者自らの情報の更新には限界がある」ということを感じているんですね。理由はいたって明快で、自分のブログなり、サイトなりを運営していく原動力って"管理者のモチベーション"しかないんですよ。管理者がそのブログやサイトを更新していることに意義を見出して、モチベーションを維持していないと、運営をつづけていくことは難しい。まぁ、お金が発生していても、書き手のモチベーションが低ければ提灯記事ばかりになるとも思いますけどね。
 そこを踏まえると、サイトを継続的に運営していくのに大切なのは、やはり「情報の発信者と受信者が同じ立場にいる」ことだと思うんです。言い古された話かもしれないけども、wikipediaとかニコ動みたいな、発信者と受信者が相互で保管しあえる関係性をサイトの中で持てることが継続的に情報を発信しつづけるためのキーなんです。だから、『日本語ラップ.com』が情報を「誰でもポストできる」という仕組みを持っているのってすごく大事な点だと前から思っていて。
 ただ、だからこそBenzeezyさんの発言で、「"ドープでないもの"は掲載対象にはならない」というところがひっかかるんです。「このアーティスト(曲)が"ドープ"か、否か」という判断って、個人の趣味嗜好に基づくものじゃないですか? 私が"ドープ"だと思っていても、Benzeezyさんがそう思わないものもあるはずで。いままでのメディアも結局そういうフィルターをかけていたからこそ、新しい情報が出てこなくなってしまった面があると思うんです。勿論、ある程度フィルターをかけないと、有象無象の訳のわからない情報ばかりになってしまって、読者を混乱させるだけかもしれませんし、フィルターをかけることでそのサイトの信頼性が保たれる部分もあるので、そのバランスをどうやってとっていくかというのは大きな課題だと思うのです。「誰でもサイトに情報をアップできる」ということと、「ドープな情報しかアップさせない」という相反することをどうやってバランスを取ればいいのか。

Benzeezy:サイトの更新に関しては本当にそう思いますね。モチベーションが無いとまず更新を怠ります。そして、「日本語ラップ」を扱う場合、そもそも情報が少ないという現実もあります。USと比べるとアップデートされる情報量が物凄く少ないですよね。昨日は7件ポストできたけど、今日は1件しかポストするものがないとか。
 また、微熱さんの「情報の発信者と受信者が同じ立場にいる」という発言に付いてですが、情報発信者がそれをRAWな状態で提供出来るかなと思い、『日本語ラップ.com』を構築したというのもあります。ただ、情報発信者が自身でその情報をポストする事が容易ではないのかなとも感じています。情報発信者が『日本語ラップ.com』にログインして、自身の情報をポストするというのは、僕からしたら物凄くシンプルな作業だし、テキストをコピー&ペーストする程度で済みますから、とても簡易的だと思っていたのですが、現実どうもそうではないようで。
 僕は『日本語ラップ.com』の利用方法をイチからレクチャーするのはちょっと違うなと思ってるんです。システム自体も物凄く汎用的なものを利用していますし。現在、『日本語ラップ.com』に投稿者(ライター)として登録されている方は70名程いらっしゃいますがこの数はあくまでも登録しただけの数で、実際動いている数ではありません。本当に『日本語ラップ.com』を毎日支えているのは実質2名。それも僕を含んだ数です。もともとは『日本語ラップ.com』にユーザ登録した各人が日々情報をポストし、それを僕がフィルタリング(精査)するという運用スタイルを意図してつくっていました。この「フィルター」は確かに僕のただのエゴですから非常に独裁的であると思います。当初『日本語ラップ.com』は趣味の延長レベルだと思っていたのでこの点はそこまで気にしていませんでした。
 いまは、「フィルター」を介さないと本当に「ドープな情報」は、それ以外の「ワックな情報」に埋もれてしまうと思っています。情報自体が少ないからこそ、逆に「ワックな情報」が目立ってしまったりも有りますし。投稿者が増え、「誰でもサイトに情報をアップできる」本来の運用形態がとれた際、改めてこのフィルターに関しては議論する必要がありますね。

――アーティスト本人がツールをつかって世間に情報を発信していくというスタイルはブログやMySpace、Twitterなんかのおかげですごく一般的なものになってきています。ただ、それらのツールから発信される情報は、そのアーティストに興味があるリスナーにしか届きづらいというところが難点なんですよね。こういうポータルサイトに投稿することへの"敷居の高さ"ってやっぱり感じるものだと思いますけど、アーティストの立場で考えてみると、自分のブログやTwitter以外の場で、自分の曲を色んな人に知ってもらえる機会がつくれる貴重な場という見方はできるんじゃないでしょうか。実際、私もこの『日本語ラップ.com』やBenzeezyさんのツイートで知ったアーティストや曲もありますし。おそらくBenzeezyさんが言うようなやり方での理想的なかたちは、アーティストや関係者の方がポータルサイトにどんどん情報を投稿して、そこにドープなアーティストや曲が出てきたら特別に記事などを設けて更にリスナーを惹きつけるような仕組みなんでしょうね。

Benzeezy:本来は微熱さんの仰るように、各人が日々情報をポストして貰えると嬉しいんですけどね。例えばポストするのがアーティスト自身だったらたっぷりとアピール出来ると思いますしね。『日本語ラップ.com』でとりあげている情報は一部を除き、ほとんどがインターネットで手に入る情報です。ブログやMySpace、最近であればTwitter等の情報を日々DIGしてネタを集めています。

――へぇ。ということは普通に私達もインターネットで探せば手に入る動画や曲が中心だということですね。Benzeezyさんから発信されている情報は知名度のあるアーティストの情報もありますけど、結構若手中心というかあまり聞いたことの無いアーティストが多いですよね。

Benzeezy:そうですね、『日本語ラップ.com』が吐き出す情報は基本インターネットで探せると思います。ドープなアーティストに若い方が多くなってしまうのは、彼らは動きも頻繁なので必然ですよね。僕が思うドープなアーティストは大抵インターネットを多用していますから、そこにあるドープな情報をピックしているだけです。アーティストから直接情報を聞いたりという事も多少は有ります。中には音源を公開していないアーティストも居ますし、そうなると口コミ以外で情報は入りませんからね。ただ、情報の入手元は基本インターネットですよ。ドープなアーティストを見つけ、その情報をDIGする事で別のドープなアーティストに辿り着く。ドープな方々って結局繋がっていますからね。

――いま、「若い方のほうが動きがある」という話がありましたが、情報をDIGしていて、特に面白いと思うアーティストってどんな人がいますか? AKLOKLOOZはそれまでほとんど誰もやっていなかった「無料でミックステープアルバムを出す」ということをやっていて、そこは勿論面白いのですが、やはりUSヒップホップのビートをジャックしたり再解釈しながらラップしているところが今までの日本語ラップにはない面白さを生んでいると思うのですが。

Benzeezy:僕が面白いと思うアーティストさんは本当に沢山います。そして、その方々に共通しているのは「新しい事を実践している」点かなと。全員ではありませんが、微熱さんの仰るフリーミックステープ配信やフリーダウンロード等。これらをこなし、その先で何かのプロジェクトを持っているアーティストさんは本当に面白いですよ。
 名前を挙げると、AKLO、KLOOZ、MATCH、RICK(CRIXX)、U2K、PRIST、MoNDoH、show-k、FRG、YAMANE、BAN、ELOQ、EGO、RAKABEE、YAN-MARK、Mic、あるま、和み、B.T.REO、SKY BEATZ、ham-R、TND…といった人たちですかね。
 ビートジャッキン、そしてフリーダウンロード配信。ここまでは、メジャーとディールが無いアーティストであればもうやらない理由が無いと思うんです。ここまでスマートに自身を売り込めるフロウって何処にもないと思いますし。ただ、「最終的にヘッズの向こう側に届けることができるか?」という部分が重要だとは思いますけどね。

――ミックステープにかかわらず、無料DL曲の配布はあまり名前が知られていないアーティストが周囲に自分の存在をアピールするのにとても適していますよね。ビートジャックも、ラッパーにとってはとても手軽な方法ですし、低予算のなかでクオリティの高い曲をつくるとしたら不可欠な方法でしょう。この先にお金に結びつくのどうかは置いておいて、おっしゃるとおり「やらない理由が無い」と思います。Benzeezyさんが挙げられたアーティストは確かにどの人もオリジナルなセンスがや視点を持っていると思うのですが、「何かのプロジェクトを持っている」というのはどういうものを指しています?

Benzeezy:ただ作品をドロップするだけでは誰にも届きませんよね。フリーダウンロード音源の配信含め、その先に具体的なスキームを持って行動されているかが重要だと思うんです。その先のスキームというのは各人異なるとは思いますが、例えば正規作品のリリース。フリーダウンロード音源が正規作品を手にとるための足掛かりとなる、とか。あくまでも一例ですけどね。
 でも、何かの足掛かりになるからこそフリーダウンロード音源の配信は本当にドープな事をやっていないとダメですよね。誰もがやっていない事をやるべきだと思いますし、速度が本当に重要です。それが現在の流れだと思いますから。最近だとKLOOZさんの"Like A Game"一連のリミックスは新しさを感じました。速さで言ったらmikE maTidaさんの"Power Remix"とか。あのタイミングでのYAMANEさんのMIXTAPE"Drink It"も驚きましたけど。

――ここでいう「速さ」というのは、ムーブメントが起きたらすぐにのっかってレスポンスするようなスタンスですよね。このみんなが共有できる”リアルタイム感”は、インターネットが発達したいまの時代独特のものです。ただ、Benzeezyさんの言う「ドープさ」というところをもう少し聞いてみたいのですが、センスみたいなものでしょうか。

Benzeezy:僕が惹かれるアーティストの「共通の何か」という事に関して、実は僕自身も疑問だったんです。ある時、あるアーティストに直接尋ねてみたんです。「ドープなアーティストをDIGしていると結局あなた方に行き着く」みたいな事を。そのアーティストの回答では「共通の何か」を僕はわかりかねたのですが、一つわかった事は、僕がドープだと思っているアーティストは自身で相当情報をDIGしているという事です。
 そして彼ら自身のDIGがドープなアーティストさん同士を繋げている。例えばMySpaceでドープなアーティストをDIGしたらフックアップしたり。ネットワークというテクノロジーを有効活用しています。また、彼らが素晴らしいのは「コア」で終わろうとしていない所なんですよね。屈折して「コア」に進むのではなく、様々なものを巻き込んで大きい動き、ムーブメントを造ろうとしている。それは彼らを知らない人さえも巻き込む力を持っていると思います。

――非常に興味深い指摘だと思います。
 確かに貪欲に他人のスタイルやトレンドを吸収して作品に"SWAG"として落としこめているアーティストがさっき挙げられた中にも多い。それはつまりどういうことかというと、彼らに「DIGの姿勢」があるということだし、「色んな人と楽しめる"トレンド"としてのヒップホップ」をつくっている姿勢にもあわらわれている。
 中でも私がとても参考になったのは、「自身のDIGがドープなアーティスト同士を繋げている」という部分です。インターネットはパソコンのディスプレイの中に広がっているものだから、「”現場”はインターネットにはない」というような意見を持ち出して、そこで育まれるシーンや人の成長を否定する人もいたけど、その意見は説得力の欠けるものでした。なぜならインターネットそのものは単なるツールに過ぎないし、そこでの"繋がり"や"発見"は人間によって実現されるものなのだから。
 そういうネットによって広がるシーンの可能性やアーティストの繋がりを否定する意見は特に4~5年くらい前まで、いま30歳を超えるような人たちから発せられることがありましたけど、ここ1年くらいはそういうものもあまり見なくなってきましたね。逆に、若い子を中心にインターネットにある様々な"ツール"を利用して、自分のネットワークを発展させながら、他人と繋がって、その影響を自分のスタイルに取り込んでいくアーティストが増えてきたと思います。これは、世代間の「インターネットに対する見方の違い」なのかもしれません。

Benzeezy:非常に現場主義というか、RAWな物をRAWな状態で聴くのがヒップホップだと僕は思っていますが、これだけネットワークが成長し多様化してしまうとそれにも変化が生じて、クラブへ足を運ばずともRAWなものに接することが出来る訳で。アーティストが自身のPCから発信する音源が、その時点で最もRAWで、フレッシュであり、リスナーはそれを直ぐに体感出来てしまう。そうすると「現場感」みたいなものは外にも中にも無いボーダレスな感覚になってきたような気がするんですね。
 そして、ネットワークを「ただのツール」として切り分けられるかどうかは、物凄く重要な感覚だと思います。Twitterやmixi、Facebook等の所謂バーチャルなツールでも、それこそ現場と同じように「しがらみ」がある訳で、アーティストたちは本音を吐露する場が無いのではないかと思います。これではネットワーク、インターネットの可能性を物凄く狭めていると思いますし、それはやはりただのプロモーションツールでしかない。だから僕が一番好きなツールはMySpaceなんですね。馴れ合いのない不親切でドライな感じが好きなんです。ドープなアーティストは「繋がっている」という感覚が。
 また、微熱さんの仰る"世代間の「インターネットに対する見方の違い」"は僕も感じています。これは所謂「SWAG」の解釈の違いだと思っているんですよね。僕たちヘッズはアーティストが「今日何を食べた」かには全く興味は無い訳で。それはドープではない。ただ、ある世代は自身を魅せる事を推しますよね。でも、それは「SWAG」とは思えないんです。あくまでも「ライフスタイル」でしかないと言うか。僕等貪欲なヘッズが求めているのは最新のドープなSWAGなんです。若いアーティストはこれを無意識に理解しています。僕はあるアーティストに「ヒップホップを意識して制作している訳ではない」と言われたことがありますが、その時に改めてSWAGが何たるかを理解した気がします。

――ファッションやスタイルのトレンドを自分なりに解釈して、自分独自のスタイルに作り上げたものが"SWAG"と呼ばれるものだと思います。そうするとやはりそのSWAGが流動的に次々と進化していくには、最新の情報がどんどん生まれてくるインフラが必要で、現在はインターネットがその役割を担っているということだと思います。インターネットのなかにも色々なツールが生まれて、いままでになく"情報を生み出す場"として機能しているから、USのアーティストも勿論そうですけど、日本のアーティストのSWAGもすごい速さで進化しはじめている印象を持っています。

Benzeezy:そうですね、インターネットの存在がSWAGの提唱を後押ししたでしょうし、現在SWAGをうたうのならば不可欠なインフラだとは思います。しかしUSに比べ、日本のSWAGの進化というかスピードは物凄くゆるやかなので、家から外出する事を躊躇う位のドープな情報とスピード感が欲しいですね。ただ、それこそインフラが整備されたお陰で外でもドープな情報を入手出来てしまいますから更にスピード感は必要になりましたけどね。
 一連の"Like A Game"リミックスに関しては、もうヒップホップという枠組みなんかは超えてしまって、ただどれだけ面白い事を吐き出せるかを競い合っていますよね。僕がKLOOZさんやAKLOさんを「新しい」と思えるのは、この小さな枠に固執していないからなんです。自身がドープ、フレッシュだと思えるものをスピード感を持ってこちら側へひたすら提供していく。彼らの根源にはもちろん「ヒップホップ」があるのでしょうけれど、それをヒップホップと特に意識しているとも思えない。それが受け手からしたらたまらなく面白いし、僕なんかはドープだと思うんですよね。

<a href="http://klooz.bandcamp.com/track/like-a-game-ft-aklo-ban">Like a GAME ft.Aklo Ban by klooz</a>

――知らない人のために説明すると、"Like A Game"はKLOOZが今年ドロップしたミックステープ『No Gravity』のなかにある曲で、Scarfaceの"High Powered"のビートを下敷きに自分のラップスタイルを物に例えて、「自分のラップはまるで○○○のようにイカしている(ドープだ)」とセルフボーストするラップ・ゲームです。
 Scarfaceのビートを引っ張ってくるセンスも渋いのですが、"ラップでゲームしながらそれを曲にしてしまう"というコンセプトがなによりも新しかった。その新しさは、「ルールは簡単だから、みんな挑戦してくれ!!」とKLOOZが自分のブログでも言っているように、「自分の曲をパクるな」というような排他的なものではなく、「自分がつくったこのゲームに参加してくれ」とアピールするスタンスにもあらわれています。
 昨今のリミックスブームの流れも手伝って、"どれだけ面白い事を吐き出せるか"というこのゲームに参加したアーティストもたくさんでてきました。同じサイコロ一家のPRISTとsinsi-Tや、さっき名前もあがっていたCRIXXのRICK、MatchRioR、MorrowGASFACE、JBKs.da SquadCHIKATETSU…。「どれだけ面白い事を吐き出せるか」を競いあうこのゲームは、それぞれのラッパーの持ち味を引き出すこともできたものだと思います。
 しかし、やはり私が最も注目している点は「自分のつくった曲を皆に使ってもらう」というスタンスなんです。これは、いまのお金にならないフリーダウンロード曲ならではのもので、自分の曲をいろいろな人に使ってもらって広めてもらうことで自分の名前を広めてプロップスも上げていくという。今回の"Like A Game"でもなんだかんだで一番名前が広まって、プロップスが上がったのもこのゲームを作ったKLOOZとAKLOですよね。ここがとても重要なポイントだと思うんです。

Benzeezy:僕が「ドープだ」と思う方々って本当に動きが速くて、KLOOZさんの"NO GRAVITY"がリリースされた時も直ぐにMATCHさんがtwitter上で「Like A Gameやりたい」と反応して実際にREC、作品をドロップ。と、一連の流れがとにかく速い。mikE maTidaさんのKanye West "Power"リミックスにいたっては、USでリークされたばかりの段階でのビートジャッキンだった訳で、速さで言うなら世界最速だったのではないでしょうか。インストリーク前だったので、サンプリングビートをチョップした状態でのリミックスでしたが、そのスピード感はやはり凄かったし、ヘッズなら誰もが驚いたと思います。僕のYouTubeアカウントでアップロード公開させて頂いた音源だったのですが、mikE maTidaさんの「スピード感」を無くさない為、同氏からの依頼から公開までを数時間でおさめました。


mikE maTida "Power remix"

 こういう動きって本当の意味で生活にラップが浸透しているからできることだと思うんです。もちろん、KLOOZさんが"Like A Game"参加を呼び掛けた時反応したMCやmikE maTidaさんだけが素晴らしいとは思わないけれど、間違い無く「新しい感覚」を持っている方々だとは思います。また、"Like A Game"では、オリジネイターであるAKLOさんやKLOOZさんと比較して聴く形になりますから、どうしたって彼らのプロップスが上がるのは間違い無いですね。

――そうですね。他人がドロップした曲にすぐ反応してそこに乗っかって自分の存在をアピールできる人じゃないとインターネット上ではプロップスを集めにくいかもしれない。

Benzeezy:少し前までは”USのヒップホップを昇華できたものが優れた日本語ラップだ”と言う見方だったと思いますが、現在の僕の日本語ラップに対する解釈は違います。もちろんUSのヒップホップは素晴らしいし、現在の日本語ラップがその影響下あるのは間違い無い訳ですが。
 現在の日本語ラップは、ある部分でUSより飛び抜けたドープネスを持っていると感じます。速度感もあります。それを証明するのは各々が持つ所謂「SWAG」であると思っていますが。

――Benzeezyさんは現在のUSのヒップホップと日本語ラップに対する解釈は違うとおっしゃってますが、私はまた違う考えを持っています。というのも、USヒップホップと日本語ラップの自国での受け入れられ方や流通のされ方は全然違いますが、やはりインターネットを基盤にした音楽の広がり方というのは似たような道筋をたどっているように見えるからです。
 アメリカの場合は、ブッシュ政権から長引く不況の影響もあって、商業ベースでつくられるヒップホップの姿がここ数年で大きく変わりました。"世間で売れる"限られたアーティストだけがメジャーレーベルのコントロール下でセルアウトした曲をつくって数少ないリスナーのパイを食い合っているような状況です。そこから外れてしまった多くのアーティスト達は自分の曲に金をかけてくれるレーベルもなく、作品をリリースすることもできなくなった。しかし、そういう商流からあぶれたアーティストを支え、彼らの曲をリスナーに届けるインフラとなったのがインターネットです。日本の場合は、アメリカほどヒップホップが世間に浸透しているわけではありませんが、マスに対して簡単に作品を流通させることができない状況はほとんど一緒です。そして、多くのアーティストが数少ないリスナーからプロップスを集めていかなければならない。その受け皿が今後何になるのかは明白でしょう。
 "POWER"をリミックスしたmikE maTidaやHIGH 5、"I Can Transform Ya"をリミックスしたMINT、最近だとKLOOZとAKLOが"I REP"をリミックスしていましたし、CherryBrown(Lil'諭吉)がRick Rossの"Blowin Money Fast"をジャックしていました。他にもCherryBrownやMINTを筆頭にミックステープアルバムをネット上にドロップしていたアーティストもたくさんいましたが、こういうインターネットが受け皿となって生まれているものがある以上、それをフォローできていないメディアは「必要ない」とまでは言わないけども、現在のシーンやムーブメントをフォローできてはいない「遅れたメディア」です。


Klooz x Aklo "I Rep the remix"


Cherry Brown "BMF [Bombing Music Fast]"

Benzeezy:「遅れたメディア」というのは僕もそう思いますよ。もちろんピック出来ないしがらみ、いわゆる大人の事情があるのは承知していますけど、AKLOさん、Cherry Brownさん含め物凄いスルーですからね。KLOOZさん、AKLOさん、BANさんがYouTube上で発表した"Butterfly City Remix"の再生回数、一晩でたった200回ですよ。僕にはメディアにもアーティストにも「ドープなものはフォローしてもらいたい」。素直にドープだと思うんですよ、"Butterfly City Remix"の楽曲もコンセプトも。しがらみ、私怨は置いてフォローして欲しい。それだけなんですよね。だから、こういった状況を見てしまうと本当にhaterは身近に居るとしか思えないです。それはヘッズも重々感じているはず。
 そして微熱さんも挙げた、"I REP THE REMIX"。これは楽曲ももちろん素晴らしいですけど、ヘッズがTwitterを中心に注目させました。メディアが遅れる現在はこれが現在の新しい動きなのだと思います。結局この「"I REP THE REMIX"で誰がプロップスを上げたのか」って事ですよね。僕は自身のFeed Readerだけを信じていますからね。そこで得るドープな情報のアウトプットとして『日本語ラップ.com』のようなサイトを運営して、ヘッズに情報をエスカレーションしています。今後は「ドープな情報を各々で収集して皆で共有する。」そういった形式が主流になって行くと思います。


Aklo, Ban, Klooz "Butterfly City"

――"Butterfly City Remix"が出た頃は、まだKLOOZやBANの知名度がそこまで高まっていませんでしたからね。"I REP THE REMIX"がたった2時間で1000回もダウンロードされたことを考えると、彼らを取り巻く状況が少しずつ変わってきているんじゃないでしょうか。仮に、新世代のアーティスト達に対するhaterがいたとして、その人たちがYouTubeの再生回数をコントロールできるわけではありませんから、私にはもともと興味が無かった人たちが新世代のアーティスト達を徐々に注目しはじめてきたように見えます。寧ろ彼らの「自由参加型」のスタイルが少なからずいたかもしれないhaterをも取り込んだという見方のほうがポジティブで、彼らのスタンスにもあっている気がします。
 しかしBenzeezyさんと話をしていて痛感するのは、Twitterや『日本語ラップ.com』のように絶えず情報をキャッチして、読者に速い情報を伝えることのできるメディアの需要こそが高まっていくのだろうなということです。自分もレビューブログをやっていますが、日々流れてくる数多くのフレッシュな情報を汲み取ることはできていない。そういう勢いをありのままに伝えることのできるメディアこそがアーティストやリスナーにエネルギーを与え、これからのシーンを支えていくのだと思います。私達が気になる情報のリンク先には、実際の音楽や動画が流れ、アーティストの生の声があって、いつだってそこへ簡単にアクセスすることができるのですから、時間をかけて文章を書いてそれをメディアにのっけて他人の目が留まるのを待つなんていうまどろっこしいことをする必要性をあまり感じなかったりします。

Benzeezy:メディアの話だけでなく、「日本語ラップ」という括りで言ってしまうと現状のままでは未来は無いと思います。もちろん「日本語ラップ」そのものが無くなることは無いでしょうが、ますますアングラなものになってしまうのかなと思っています。何故なら、このドープな物を伝え広めるメディアが無いし、そして「日本語ラップ」に誰もpayしていないから。
 良くも悪くもフリーダウンロード配信が常識化した現在、payする事って物凄くエネルギーが必要ですよね。ドープな物はインターネットに沢山転がっていますから。それを考えると、楽曲をひたすら制作してリリースしていくという従来のスタイルは今後無くなると思います。そして今までに無いスキームを持ったアーティストだけが生き残って行くのではないかなと。知名度やリリース量がキャッシュに繋がらない時代になると思いますよ。

――インターネットから発信されるヒップホップの姿を突き詰めていくと、結局はアーティストのモチベーションとなる"プロップス"と"金"がどこから産まれてくるのか?というところに行き着くんでしょうけど、CDが売れなくなってレコード屋が閉店し、雑誌が売れなくなってメディアの在り方も変わってきている中で、いままでの音楽やシーンがそのままの姿でありつづけるなんてことは絶対にあり得ない。
 言ってしまえば、金から切り離されて、メディアからも切り離されながら、フォーマットだけを継承して生まれてくる現在の日本語ラップと数年前の日本語ラップは成り立ちから、リスナーへの広がり方まで全く別物ですからね。そこにはっきりと線をひくことができる。いままでの日本語ラップが退屈だと思っていた人こそ、現在の日本語ラップを楽しめるかもしれません。

Benzeezy:今までの日本語ラップはCDセールスというわかりやすい指標があったわけです。しかし微熱さんの仰るようにCDも売れなくなる、そしてCDを売っているショップさえも次々と減っていく。そんな中、アーティストはどこにモチベーションを求めるのかといえばそれはインターネット上の情報でしかないと思うんです。だから僕は微熱さんのブログのようにレビューするメディアはアーティストにとって大歓迎だと思いますよ。オフラインに評価してくれるメディアがない今、アーティストは評価される事に飢えていると思うんです。現状のままだと彼らがプロップス体感出来るのはネットワーク上のバイナリファイルの流通だけで、それは余りにもバーチャルなもの。人間(ライター)が分析、判断した言葉はアーティストにとって非常に響くと思っています。

――今回の対談インタビューでの私の一番の収穫は、インターネットから産まれる音楽シーンには"速度"や"スタイル(SWAG)"の他に、"人の繋がり"がかなり重要な意味を持つということに気づいたことです。インターネットから産まれる音楽シーンって何も日本語ラップに限った話ではありません。それこそアメリカの地方から産まれるラップのトレンドだってそうだし、UKのGRIMEだってインターネットが支えている面があります。ただ、インターネットを中心とした活動は、簡単に金を得ることができないのは確かです。しかし、それでも彼らは活動を起こし、まがりなりにも"シーン"と呼べるものをつくっている。それはもしかしたら、自分のつくる音楽をブラッシュアップできる仲間との繋がりだったり、自分の曲をジャックして遊んでくれるライバルMCやそれを受け取って広めてくれるリスナーとの繋がりが支えているのかもしれません。勿論、いま自分のやっていることの"先"を見出すことができなければ、活動を続けていくのは相当に厳しいことだと思いますが。
 そしてこれは、アーティストの活動だけではなくて、彼らの活動を支える位置にいる『日本語ラップ.com』のような情報発信サイトや情報を発信するリスナーのTwitterやブログにも同じことが言えるでしょうね。アーティストからギフトを受け取って、それを皆に広げることでアーティストにフィードバックしていく。インターネットの片隅の片隅から芽生えるシーンを育てていくためにも、"速度"・"スタイル(SWAG)"・"人の繋がり"の3つにフォーカスを当てて、発信することのできるメディアは必要だと思います。

Benzeezy:僕は日本語ラップシーンの中で何かが出来るなんて事は思ってもいませんし、思ったこともありません。ただ現在は数年前の「日本語ラップ」シーンのようにお金を掛けてプロモーションし、ムーブメントをおこすという時代ではない事は理解しています。だから僕は本当に優れたアーティストを僕が提供出来る限りのインフラに乗せて世の中に紹介し、そのアーティストを一人でも多くの人間に知って欲しいという思いで『日本語ラップ.com』を運営してます。この新しい時代の日本語ラップにブームが来ている事は皆さん感じていると思うんです。ただ、もう今までの事をそのままエスカレーションしても何とかなる時代ではない。インターネットという優れたインフラに乗せ、それを有効活用し最終的にはヒップホップ、日本語ラップでお金を得る。そのお手伝いが出来れば僕はそれで満足です。日本語ラップが大好きですからね。


関連ダウンロード

■ Aklo, DJ Uway "A Day on the Way" : download
■ Aklo "2.0" : download
■ Cherry Brown "Supa Hypa Ultra Fres$shhh 3" : download
■ Cherry Brown "98%ちぇりー" : download
■ Klooz "No Gravity" : download
■ Mint "sex, lies, and download file vol.1" : download
■ Yamane "Drink It" : download

Wednesday, July 14, 2010

Big Boi - Sir Lucious Left Foot: Son of Chico Dusty






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当初のリリース予定から3年も延ばされ、Andre3000と絡んだ曲を入れないことを条件に別レーベルからリリースすることを許されて、ようやく陽の目を浴びることのできたBig Boiの"Sir Lucious Left Foot: Son of Chico Dusty"は彼の律儀な性格が隅々まであらわれた名作だった。その律儀さは何も Andre3000がOutKastの活動をサボタージュしている一方で、こつこつとソロアルバムをつくってレーベルとの折衝に長い年月を費やしながらリリースにこぎつけた姿勢だけにあらわれているものではない。この作品の魅力はそれぞれの楽曲の内容、そしてインターネットから産まれるヒップホップシーンの背景とBig Boiの置かれた立場を踏まえてこそ際立つ。

ことヒップホップにおいて、インターネットからミックステープの無料配布や楽曲・動画の配信を行って、アーティストの知名度を上げるというプロモーション方法はもはや一般的なものになったが、もともとインターネット上での音源共有は商業流通されている音楽ファイルの違法アップロード/ダウンロードから端を発していることを忘れてはならない。個人対個人で音楽・動画ファイルをやりとりするP2P方式から、WEB上にアップロードされた無数のファイルを誰もが自由にダウンロードできるオンラインストレージ方式へ移るに従い、インターネット上での違法音源のやりとりは爆発的に増えた。

長引く不況によって、"世間に売れる音楽"をつくる体力しかなくなったメジャーレーベルは自らが契約している多くのアーティストの才能を黙殺し、新たな才能を発掘して世間に認めさせることを放棄した。売れるラッパー、売れるメロディ、売れるゲストを取り込むことのできた楽曲だけが商業の流通に乗って売りに出される世の中になった。他方で、インターネットがインディペンデントなアーティスト達の受け皿となって、彼らの音源や動画をリスナーへ届け、新たな才能を次々に発信しているのは間違いない。しかし、そもそもメジャーレーベルの体力が一部の限られた楽曲しかリリースできなくなるほど落ち込んでしまった原因を考える必要がある。何が"音楽の流通"を殺したのか? ブッシュによる無意味な戦争のせいか? リーマンショックによる恐慌のせいか? それとも、インターネット上ではびこる違法ダウンロードのせいか?

結果的に、youtubeやrapidshareといったオンラインストレージサービスが見捨てられた地方にくすぶっていたヒップホップを加速度的に発展させ、次から次へと新しいムーブメントやスタイルを産み出し、絶え間なくリスナーへ刺激を与え続けている以上、それを"悪"だと切り捨ててしまうのはあまりに狭量だ。だがしかし、それらのインターネットツールが音楽の流通を殺して、商業レーベルとそこにぶらさがるアーティスト達の首を絞めているのも確かな事実だ。インターネットツールはメジャーレーベルの血脈をじわじわといたぶりながら、そこから溢れ出てくる無数の才能に光を当て、ヒップホップの更なる発展を促すというサイクルをつくっている。そういう意味では、シングルヒットに恵まれなかったためリリースを延々遅らされ、プロモーションもろくに行われなかった結果初週のウィークセールスが7万枚にも届かなかった"Sir Lucious Left Foot"はまさに"悪い意味で"インターネットツールのあおりを受けたアルバムといえる。

しかしそれでもなお、リリース1週間前には自らのmyspaceでアルバム全曲をフル公開し、契約上リリースが不可能となったAndre3000との曲("Looking For Ya")を無料配信するBig Boiは(twitterでは「"Looking For Ya"をダウンロードして"Sir Lucious Left Foot"の10曲目に入れてくれ」とも言っている)、自分の被った打撃以上にインターネットから広がっていくファンとシーンの可能性を信じているということではないのか。


"Lookin for Ya" ft. Andre 3000, Sleepy Brown : download

ファンク、クランク、トランクミュージックに目配せをしつつ、Lil' WayneやDrakeではなくもっとストリート寄りの"旬"なアーティスト――YelawolfにGucci Maneをゲストに置き、Dungeon Familyを軸に沿えながら"OutKast路線"を踏襲する。"Sir Lucious Left Foot"はBig Boiがファンの目線に立って、"Speakerboxxx / The Love Below"の先に広がるFuturisticな世界観から"Southernplayalisticadillacmuzik"のオールドスクール志向なフレイヴァまでを取り入れ、ファンの求める「いま最もイケているOutKastのアルバム」を見事に構築してみせた作品だ。

長いキャリアのなかでの初めてのソロ作なのに個人の趣味に走らず、忠実にOutKastとしてのアルバムをつくったBig Boi。音楽業界全体が低迷しほとんど全てのメジャーレーベルがどん底に沈む中で、2度とソロアルバムを流通させることはかなわないかもしれないが、インターネットプロモーションをも活用して律儀に作られた"Sir Lucious Left Foot"の内容と質に魅了されたファンが今後の彼のキャリアを支えていくには違いないのだ。

Friday, July 02, 2010

In Alphabetical Order

□ サグでなにもない上半期 2010



Alley Boy, DJ Holiday & The Empire
"Definition of Fuck Shit"

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E-40
"Revenue Retrievin' Day Shift"

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E-40
"Revenue Retrievin' Night Shift"

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ECD
"Ten Years After"

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Giggs
"Let Em Ave It"

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Gucci Mane, DJ Drama
"Mr. Zone 6"

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Klooz
"No Gravity"

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Meek Mill, DJ Drama
"Flamerz 3"

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Starlito
"Terminader Gold 60/Love Letters"

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Stunnaman
"Legendary"

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Toro Y Moi
"Causers of This"

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Wednesday, June 16, 2010

ECD - TEN YEARS AFTER






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23歳まで万引き常連。37歳まで童貞。コカインはダメで酒にはしって、気がついたらアル中。金はあるだけ遣って、気がついたら貯金ゼロのバイト暮らし。

インタビューでECDは「そういうのがラップなんじゃないか」と言っているけども、50歳のラッパーが力いっぱい声を張り上げてただただどうしようもなかった自分のことをラップしているということがまずアヴァンギャルド過ぎる。割れてひずみながら耳に鋭く差し込むサウンドと、一言一言はっきり力強く進むラップ。そして自分のいままで歩んできた道筋と、現在の自分の生活。そのすべての表現は"ヒップホップ"に他ならないのに、それでも聴いた後に言いようの無いしこりが残るのは、それをラップしている本人があからさまに冷めていて、自己愛みたいなものと全く無縁なところにいるからだろう。自己肯定もなければ、自己否定もない。どこか遠くに放り出されたECDのことを、ECDがラップしている。

サウスを消化した不安定なメロディを持つビートが『TEN YEARS AFTER』が持つ不気味さを引き立てているところも見逃せない。その不気味さの核になっているのは、「とーくには行けないわけがある」("I Can't Go For That")や「軽くしたいとは考えないのは放り出したらまたひとりだから」("Alone Again")や「家から職場職場から家 / その往復は仕事とは言え / あまり楽しくは、ならやめちゃえ」("今日の残高")などの言葉の裏に垣間見れる"すべて投げ出して独りでどこかに行ってしまう"ことへの憧憬だ。妻と子供が支えるECDのポジティブ、そしてその端々に見える生活のリズムの不安定さの絶妙なバランス。なによりECDが表現する家庭の不気味な"重さ"は『TEN YEARS AFTER』に欠けた自己愛の重さに代わり説得力を帯びさせる。

金・仕事・家庭・音楽そして自分の存在――ECDを取り囲むすべての関係と意味合いが大きく変化を遂げた。つまるところ、『TEN YEARS AFTER』の素晴らしさは、過去の自分を冷めた眼で観察し、対比させながら、現在の不安定な環境で懸命にバランスを取っているECDの姿がそこに鮮明にあらわれているところにある。視点の冷たさ。不安定なバランス。生の重さ。それらすべてを描き切るのには、冷徹で、イビツで、荒々しく、重々しいサウンドとラップこそが相応しく、50歳ラッパーのECDは『TEN YEARS AFTER』で音とビートとラップと言葉のすべてを"ヒップホップ"としてハーモナイズさせることに成功している。

Tuesday, May 18, 2010

微熱メモ vol.9 - Alley Boy "Definition Of F*ck Sh!t"とKLOOZ "NO GRAVITY"などミックステープその他諸々について




大半のビートを手がけるArkatech Beatzの渋めでメロウなビートがダークな色合いとざらついた叙情性を醸し出し、同じくLil Nealがプロデュースするトーンの低いFuturistic系トラックが抑えられた凶暴さを演出する。どこからともなくあらわれては消えていくミックステープアーティストの中で、いつの間にか"次のミックステープが待たれるラッパー"になっていたAlley Boyと、2010年上半期ベストと名高いミックステープ"Definition Of F*ck Sh!t"について詳しい人は一体どれくらいいるのだろうか? Alley Boyとは一体何者なのか?

Gucci ManeやYoung Droといったアーティストとのコネクションを持っているにせよ無名のAlley Boyがここまで"次のミックステープが待たれる優れたラッパー"となったのには、アトランタから発信される音源に精通しフックアップするブログの力が大きい。毎日のように何曲もアップロードされる音源やPVを追い、何人ものアーティストのミックステープをウォッチするブログの記事は、ほとんど毎日アップローダーやYouTube、Vimeoのリンクで更新され、その情報は物凄い勢いでOlder Postへながれていく。その激しい情報のフローの中でインパクトを残し、頻繁に顔を出すことのできるアーティストこそが"次のミックステープが待たれるラッパー"になる条件だ。

結局のところ、「Alley Boyとは一体何者なのか?」を取り上げるメディアなんか無くても、そしてそんな情報を得る場が無くても、ブロガーが織り成す"情報のフロー"を追い求めるリスナーは次のミックステープを待ち望む。「刺激的な音源を発見してダウンロードをする」ことが目的ならば、アーティストや作品やシーンの動向を掘り下げてナレッジを提供するメディアは必要ない。ただネットを繋いだときに最新の情報がデスクトップにあらわれて、その情報の先に音源がPVがリンクされていればいい。

日本でも海外と同じようにミックステープを無料配布するアーティストがあらわれてきたけども、彼等をリアルタイムでフックアップできている有力なメディアがネットを含めてどこにも存在しない。少なくともKLOOZやAKLOやCHERRY BROWNのミックステープアルバムをリアルタイムで追ってダウンロードしているリスナーの情報元は既存のメディアではない。

彼等のミックステープ情報を得られる場はネット上に限られている。しかも本当にリアルタイムで知りたいのであれば、Twitterを活用している必要がある。いままでは雑誌やウェブの"場の情報"に自らアクセスする必要があったけども、いま何か最新の情報を得たいのならばTLに好き勝手にながれる"情報のフロー"を眺めているのが一番効果的なのは間違いない。

きっといまのミックステープシーンの動向を知らないリスナーはたくさんいるだろうし、KLOOZ、AKLO、CHERRY BROWNといった新世代の面々の名前を知らない人もいるだろう。彼等のニュースは"場の情報"としてではなく、個人個人のTwitterに発信されて、TLの"情報のフロー"の一部から認知されていっている。いままでの"場の情報"よりもかなり小さく限定的なところに流れる"情報のフロー"をとらえることができているか否かが、彼等にアクセスできるかどうかの分かれ目になっている。言うまでも無くそこにアクセスできる人とできない人では、情報の見え方がまったく異なっている。

雑誌やWebZineなどの"場の情報"から、動画や音源のリンクが乱立するブログやTwitterの"情報のフロー"へ。きっとブログやTwitterのフローの速度に従い、シーンへの共通認識もどんどん薄れて拡散していく。なぜなら、いまTwitterで私達が見ている"シーン"のかたちは、自分個人のものでしかないし、自分とまったく同じ情報を享受できている人など本当にごく一部に限られているのだから。



関連ダウンロード

Alley Boy "Definition of Fuck Shit"
http://www.mediafire.com/?jymmtkuymmd

Klooz "No Gravity"
http://klooz.bandcamp.com/

Saturday, April 03, 2010

Lil B



どんな音楽にも作家性は宿る。作詞/作曲がされていなくても、歌やラップがのっていなくても、雑音だろうが無音だろうが、音楽作品として世の中に出されて作成者の名前がクレジットされている以上は、そこからクリエイターの意思と個性を読み取ることができる。音楽の持つ"作家性"をそう捉えれば、レコ箱に埋もれている楽曲をつなぎ合わせて作られるビートにだってもちろん作家性は宿っているし、曲をつくらないDJのミックスにも同じものがあるはずだ。トラックメイカーからビートをもらってそこにラップをのせる時、ラッパーがクリエイトしているのは何もラップだけではない。ラップをのせるビートはトラックメイカーの作品かもしれないけども、ビートをチョイスして世の中に発表するのはそのラッパーに他ならず、そこに彼のセンスが加わっている以上は、ラップだけでなくその下で鳴っているビートにも彼(ラッパー)の作家性は宿る。

他の時代に他の場所で他の誰かがつくった曲を切りはがして、他の材料と貼り付け直すことで新しい音楽を生み出す"サンプリング"がヒップホップの革新的な発明のひとつだという言い分を、ヒップホップに少しでも興味がある人であれば1度は聞いたことがあるだろう。「音楽理論を知らず、楽器をひくこともできない」プロデューサーたちがつくっていた音楽は、逆に言えばレコードと機械があってボタンの押し方さえわかれば、楽器をひける必要も、楽譜を読める必要もない音楽だった。そして、そのサンプリングの"敷居の低さ"こそが、老若男女問わず様々な地域から才能を呼び込み、多様なベクトルの音楽性をその懐に取り込んで、ヒップホップの表現に大きな可能性を与えたのだ。だとすれば、同じく数多のアーティストが毎日のようにローコストで製作して、ネット上にアップロードしているミックステープの"敷居の低さ"にも何かしらの可能性があるのではないか。

たとえば、ミックステープ"Based Blunts vol. 1"を発表するまでの間、既に1000以上の曲をつくり、100を超えるmyspaceに楽曲をアップしていたLil B。膨大な数の曲をまとめた幾つかのミックステープで垣間見ることのできるLil Bの音楽性はまさにカオスそのもので、ガバやロックの上でラップをしたかと思えば、Dose Oneがつくるようなノンビートのアンビエント・アルバムを2作立て続けに無料で発表し、その一方で他人のトラックでラップした正真正銘のミックステープを有料で配信したりする奔放っぷり。

そもそも90分以上あってCDに収めることもできないミックステープをiTunesに平然とリリースしたり、ソロアルバムをリリースすることには目もくれずmyspaceに楽曲をアップしまくったり、ミックステープをつくったはいいけど曲順が決められていなかったり、楽曲をつくる以上にPVを撮りまくっているような姿勢に「ヒップホップをクリエイトする」という概念そのものを覆そうとするLil Bの意図を深読みすることもできるが、それ以上にきっと多くのリスナーはミックステープやmyspaceで聴くことができる"捉えどころのないスタイル"に興味を惹かれるはずだ。

テクノ、ロック、ソウル……あらゆる音楽をジャックして自分のスタイルにしてしまうLil Bは、ヒップホップのビートだけでなくアンビエントのメロディまでを自身でつくりだすことのできる才能にも、Clams CasinoやSquadda BやEmyndといった先鋭的なビートをつくるトラックメイカーにも恵まれているが、果てしなく膨張していく彼のスタイルはLil Bとその仲間がプロデュースした楽曲が幹になっているというよりは、ジャンルどころか地域性も時代性も選ばない「どこかの誰かがつくった音楽」すべてを源泉として、それを乗っ取ってしまうことで確立されている。

"楽器をつかって演奏"したり、"機械をつかってビートを作る"のだけが音楽をつくる方法ではない。"他の誰かの曲を乗っ取ってしまう"方法でも同じように自分の音楽をつくることができる。他の誰かがつくったドープな曲は勝手にジャックして自分の曲にしてしまえばいいし、それが飽きたら別のものに乗り換えればいい。ラップをのせるための楽曲を「イケている」と思って選んだのならば、その曲には自分のスタイル(作家性)が顕れている。自分のスタイルを表現することへコストをかける必要は無いし、昨日までのスタイルを使い捨てする行為に勿論罪は無い。

存在を世の中にアピールしつづけなければならないアーティスト達は日常的に新しいスタイルをジャックして、自分のスタイルが他の誰かにジャックされるサイクルに身を置いているため、楽曲のモードがどんどんシフトしやすく流動的になっている。いままでのスタイルを保守する、あるいは構築/発展させていくというポリシーを持った鈍い動きのアーティストがいる一方で、スタイルを使い捨てて乗り換えていくモード志向のアーティストがこれから先もどんどん現れてくるだろう。ミックステープというフォーマット特有の構造と、アップローダーやコミュニティサービスから成るネットワーク・インフラはアーティストのスタイルを"守る"ものから"乗り換える"ものへ概念を大きく変えている。

何も「革新的」という言葉は、ラップやビートの音楽性やアプローチに対してだけに使われる言葉では無い。少なくともLil Bは、Anticonが多様な音楽性をヒップホップへ取り込んで育んだ"白人のヒップホップ"のスタイルよりも、さらに幅広い音楽性をジャックして攪拌させたような複雑に入り組んだスタイルを獲得できている。









関連ダウンロード

Digital Dripped - Lil B Archives
http://www.digitaldripped.com/lilb.htm

Lil B "Based Blunts vol. 1"
http://www.megaupload.com/?d=AH5128EY

Lil B "Paint"
http://limelinx.com/files/07a359ce5df56a5a2b7e0c905ea73988

Lil B "Dior Paint"
http://limelinx.com/files/1b7117ecdf02bfbafd50b5f4063427b4

Lil B "Based God" (Unofficial)
http://www.zshare.net/download/707414460ee0ba7b/

Friday, February 26, 2010

AKLO - 2.0 & RHYMESTER - MANIFESTO





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前作"A DAY ON THE WAY"からわずか3ヶ月、AKLOがドロップした新しいミックステープ"2.0"は恐ろしくエコなつくりだった。Lil Wayneのミックステープ"No Ceilings"(→ダウンロード)からほとんどのビートを拝借し(しかも本人曰く原曲を聴いてすらいないのもある!)、そのまま曲タイトルをAKLOなりに解釈したラップを載せただけ。USミックステープ文化を踏襲してつくったローコストでインスタントな内容だけども、そこには日本人が直訳してしまうことで生み出されたウッカリした面白味が溢れていた。

その面白さは、"Forever"での1人4役ラップ挑戦みたいなものより、CMだらけのメディアに「貧乏臭い」と形容してみせるところや、女をはべらせながら酒やシロップやコカインやマリファナで時間を無駄遣いするパーティー賛歌"Wasted"を「DJがつまらないから悪酔いするんだ」と悪態つきながらナンパにあけくれるクラブライフをボースティングするリリックに変えてしまうような、"カッコいいものとダサいもの"を完璧に区別してコントロールできているような万能感の中にある。FatBoiやKEの刺激的なビートに日本語のラップが載っているだけではない、日本人の感性とアメリカ人の感性が交錯したようなスワッグ――クールでカッコいいのだけども果てしなく馬鹿馬鹿しい感じのスタイルが、いままでには無い目新しい武器となってリスナーを魅了する。いまUSで鳴っているビートとラップを日本語ラップに置き換えてしまえばまだまだ広げられる表現の幅がある。おおよそ考えて作りこまれたとは思えないこの"2.0"はUSヒップホップの延長でしかないような簡素なつくりだからこそ、日本語ラップが持っている"余白"をより際立たせて見せてくれる。


"MANIFESTO"の中心テーマは、先行シングルの"ONCE AGAIN"が示すとおりのものだった。アルバム全体を通して、40代に差し掛かろうとするベテラン中年ラッパー達が日本語ラップという音楽表現へ真正面から挑む、ちょっと感動的な内容。そのため"ONCE AGAIN"や"ラストヴァース"といった曲に象徴的な、中年親父が日本語ラップに持つ想いや夢をそのままリスナーへの応援歌にしてしまったようなアツい印象がアルバムを覆うが、このアルバムの持つ「前向きさ」は寧ろ"再挑戦"する彼らが自分達のキャリアを振り返り振り返りながら進んでいく姿を通してこそ強調されている点に着目したい。

この作品の随所に見られる"キャリアを振り返りながら前に進んでいく"姿勢は、「大切なのは創意工夫を続けることだ」だとか「ぐだぐだ言う前に何かをやれ」というともすればオッサン臭い説教になりかねないメッセージを、自分達の経験から来る教訓として万人へ伝えるための術となり、自分達の見てきた景色や感じてきた想いを単なるノスタルジーではなく、前に進むための"通過点"としてポジティブなビジョンに変えるフックとなる。"自分の過去や経験を振り返る"、"他人へ自分の意志や想いを伝える"という一見すればとても簡単なことを日本語ラップというフォーマットから幅広い人々に受け取ってもらうためにはどうすべきか。キャリアを積んだベテラン達がその一点の課題に心血を注いだであろうこの"MANIFESTO"には日本語ラップを世に広めていくための"余白"を埋める方法が色々な形で織り込まれている。

Sunday, January 17, 2010

2009 wasted

あいかわらず09年もダサさとカッコよさが表裏一体となった作品が多かったがその中から最高にクールで最高に馬鹿げた人たちを4人。

Photobucket
■ Gucci Mane "ぜんぶ" :listen

"we don't get fucked up no more we get wasted"と言うように金と時間と才能をひたすら無駄遣いするGucci Maneの魅力とは多様化して一筋縄ではいかなくなったヒップホップの姿を、彼のラップだけで体現できてしまっているところにある。大量のミックステープやリミックスワークにクロスオーヴァーするどんな難解なビートもGucciのラップの前ではすべてコントロールされ、先鋭的なビートはより先端を行くヒップホップミュージックとなる。歌詞も同様、その辺のコンシャスなラッパーよりも複雑なライミングやシリアスなストーリーテリングができようとも、そのほとんどを「俺の時計はダイヤだらけで時間も確認できねえ」みたいなどうでもいいジュエリーやドラッグの話に費やし、無意味なダサさとファッショナブルなクールさが同居した数々のパンチラインを産み落とす。その馬鹿馬鹿しいカッコよさはオールドスクールのヒップホップにも通じるが、不思議なことに他のどんなラッパーからの影響も感じさせない。


■ Waka Flocka Flame, Trap-A-Holics "Salute Me or Shoot Me 2" :download
■ LA Da BoomMan & Roscoe Dash, DJ Millz "Southern Takeover" :download

母親がGucciのマネージャーだからというだけのコネでGucciにラップを教わり、ラップをはじめてたった一年で地元をロックしているWaka Flockaは短期間でスターになったその初期衝動と高揚感で巨大なフラストレーションを爆発させる。錯乱したアルペジオ、痙攣したスネアロール、電波ソングの合いの手のようなアドリブ、Thug FamilyのTOPのようなシンプルでナンセンスなフック、どこを切り取ってもぎゅうぎゅうに音がせめぎあっていてまるで落ち着きが無い。そんな Waka Flockaの暴虐的なスタイルに感化されたかどうかは知らないが、Rosce DashとLA Da Boommanのスプリットミックステープでは、K.E.自らがカラフルな万華鏡のような広がりを持つFuturistic系の音をレーザーのように鋭角的に圧縮し、よりシャープなストリート感を持つビートに作り上げた。そんな鋭いビートの上で、Rosce Dashが調子に乗って女こどもに向けてリア充自慢を繰り広げる歌は不愉快さと紙一重な感情を掻き立て、その不愉快さを相殺するためにはさまれるLA Da Boommanのラップは何故かただひたすらにキモい。両極端に鬱陶しい2人のラッパーの自己主張は他のFuturistic系の人たちが人畜無害に思えてくるほど。


■ Hudson Mohawke "Butter" :listen

一年間これといった進展がなかったビート(Wonky)シーンでは、Hudson Mohawkeが従来の小奇麗で厳粛なWonkに80'sのR&Bやヘヴィメタルのシャープなドラム、Just Blazeのスピード感といった大味でダサいテクスチュアを織り合わせ、荒唐無稽な音楽を作ることでその存在感をアピールした。そんなHudson Mohawkeのカラフルにゆがんだメロディは、アトランタのFuturistic系やブリストルのダブステップとの不思議なシンクロニシティを遂げ、"ダサい"と"カッコいい"が両立することを多角的に証明してみせる。


関連ダウンロード

■ Gucci Mane, DJ Holiday "Writing on the Wall" :download
■ Gucci Mane "The Gooch" :download
■ Gucci Mane, DJ Drama "The Burrprint" :download
■ Gucci Mane, DJ Drama, DJ Scream, DJ Holiday "The Cold War" :download
■ Gucci Mane × Mad Decent "Free Gucci" :download
■ Waka Flocka Flame, Trap-A-Holics & DJ Ace "Salute Me or Shoot Me" :download
■ Waka Flocka Flame "Official Trap Label" :download
■ Various Artists "ATL RMX" :download


Photobucket
■ Pill, DJ Skee & The Empire "4075: The Refill" :download
■ Freddie Gibbs, DJ Skee "Midwestgangstaboxframecadillacmuzik" :download
■ G-Side "Huntsville International" :download
■ Playboy Tre "Liquor Store Mascot" :download

07,8年のLil Wayneの猛攻から無名だったDrakeの成り上がり、Gucci Maneの果てしないプロップスの拡大まで、"サウスの音楽性+ミックステープの流通システム"の方程式は何にも欠かせないものになりつつある。それに伴い、有名無名の多くのプレイヤーがそのトレンドになだれこんだが、その中でも音楽性云々というより社会的テーマを意識的に作品に落とし込み、それをオーセンティックに表現できていたアーティスト4組をピックアップ。彼等は夢も希望も見出し難いどうしようもない状況の中でもがきつづける。莫大な予算が宇宙事業に注ぎこまれる町の片隅に放置されたゲットーに暮らすG-Side、映画館もショッピングモールも何もない廃墟と化した犯罪都市インディアナ州ゲイリーからInterscopeと契約したものの何もリリースできずに契約を解除されたFreddie Gibbs、T.I.等にフックを売りながら日銭を稼ぎ酒を飲みながら身の周りのやりきれないゲットーの様子をぼやく中年のPlayboy Tre、ヤク中の母親の死に直面しながらもどうにかドラッグディールで糊口をしのぎ知人の家を転々としてギリギリの生活を営むPill。ミックステープという媒体だからこそ辛うじて世間から注目を浴びるようになった四者四様のタフなプロダクションとハードなリリシズムはこの時代にこそ生まれる"クラシック"といっても過言ではない。


関連ダウンロード

■ Pill, DJ Burn One "4180: The Prescription" :download
■ Freddie Gibbs "The Miseducation of Freddie Gibbs" :download
■ Playboy Tre "Goodbye America" :download
■ Rob Breezy "Huntsville Alabama 2 – The Return" :download




■ Drake "So Far Gone" :download somewhere

インターネット上でのミックステープ配布でシングルチャート2位までのし上がったDrakeは、その"軽さ"では他の誰より勝る。ラッパーとしてはKanye WestとLil Wayneの劣化コピー以上の何物でもないし、ヒップホップや音楽の造詣に詳しいとも思えない。それでも、このミックステープにおけるLykke Li、Peter Bjorn & John、Santogold、DJ ScrewといったトラックのセレクションやアルバムにSadeを呼びたいという発言、"Forever"での豪華なマイクリレー企画の発案に、アーティストぶらない立ち振る舞い、これら全ては、Drakeが「何を仕掛ければ他人から趣味が良いと褒められるか」を熟知しているが故のもの。知識やスキルなどといった"深さ"の部分ではない、センスとフットワークの"軽さ"こそが大衆の心を掴むものだということを理解しているDrakeは、輪郭のぼやけたパッドと鈍く持続する808キック/サブベースに包まれた"軽く"て優れたポップミュージックを産み落とし、フリーのミックステープという"軽い"媒体を使って短期間で世界中の人々へその音楽を認めさせた。




■ U2K, DJ BUN "NIPHOP" :listen
■ AKLO, DJ UWAY "A Day on the Way" :download
■ Cherry Brown, Lil'諭吉 "Supa Hypa Ultra Fres$shhh 3" :download

大豊作だった08年は日本語ラップ作品のなかでもベストを絞り込むのが難しかったため、日本語ラップ枠を別に設けて10枚セレクトしたのだけども、09年は一転してこの3つで充分と判断。この3つに共通するのは現行のUSメインストリームに通じるプロダクションの新しさと、若い才能が+αのエネルギーとなって露出している点。リアル志向の作品も目新しさが無くなり、アーティスト個々の少しの差異に物語を見出さなければならなくなった09年は「深いリリックが書けて、共感できる内容になっている」かどうかよりも、「イケてるビートをチョイスして、カッコいいラップが載せられている」ことの方に目配せできている作品こそが新鮮に映るになった感がある。それは同時に日本のトラックメイカーの力量が問われるタームになってきたということでもあり、Hammer Da Hustler、Lil'諭吉、B.T.REOあたりの動向は10年もチェックしていきたい。