Friday, December 28, 2007

Anarchy - My Words






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今年もたくさん日本語ラップを聴いてきたけども、その中でもThug Familyは突き抜けていた。「これは事実」、「真実をライムする」としつこく念を押しつづけるのだけども、その先のリリックが「裏切り者を暗殺」とか「ナイフを隠して街角に立つ」とか「敵を見つけて銃弾を撃ち込む」という内容。スキットでも「アイツはThug Familyを裏切ったから頭を一発で撃ちぬかれた」などと不吉な発言が飛び出しているので、こんなのが"真実"なら犯罪者だぞ!!と独りで突っ込んでみたら、曲中で「俺達は犯罪者」と名乗りをあげていた。リアルすぎてまるでファンタジー。Thug Familyには決して近寄らないことを08年への抱負とした。

RYUZOのアルバム"Document"はトラックもラップもリリックも07年を象徴するかのような内容で、つまりは見事な「不良ラップ」だった。「07年っぽさ」という観点で見れば、意図的にトレンドを外したSEEDAの"街風"や、リリックに説得力が無いZEEBRAの"World of Music"よりクオリティが一段上。にもかかわらず自分にどうにもハマらないのは前にも書いた「ヒップホップに対する距離感」のせいだろう。ヒップホップへのどっぷりの「愛」と「救いを求める姿勢」がどうにも鼻につく内容で、それを取っ払って裏返してしまうと醜悪な「ナルシズム」というか「自己憐憫」が姿を現して、聴き手に「哀れみ」を植え付けにきているかのように見えてしまう。

ところで「ヒップホップに対する距離感」という話では、いま一番特別な位置にいるのは、その「距離」を「逆境」と言い換えて、"仮想敵"として闘っているANARCHYだと思う。

ガキの頃から「ブリンブリンに着飾るM.O.B.の財布の薄さに気付」き、「貧乏だらけ しょうもないやつだらけ」の団地の一角で本物のスーパースターになるために「冷たいアスファルトはいつくば」ってラップする。「寒くて寒くて眠れな」く、「不安で不安でまた寝付けない」日々も夢が実現することを信じてラップする。

「音楽で飯を食う」ということ自体が馬鹿馬鹿しく見えてしまうこの時代に、「夢」という言葉を多用するANARCHYのラップには北の僻地で逆境に耐え忍んだBOSS THE MCや、新宿の路上で閉塞的な環境に耐え忍んだMSCと同じ「重み」を持つ。彼はヒップホップを強烈に愛し、スーパースターになることを熱望する。だけども、彼が恋焦がれるヒップホップとそのスターダムは果てしなく遠いところにあり、「逆境」の壁は途方も無くぶ厚い。しかし、その壁が厚ければ厚いほど、距離が遠ければ遠いほど、比例して彼の「夢」という言葉の重みが増していくのだ。

本作でもANARCHYは全ての曲で「逆境」と闘っている。アルバムの曲だけで彼のバックグラウンドをわかった気になっている私も私だが、彼の「闘う理由」を知った気になっているだけでも、作中のどれもが同じような内容である意味がわかり、リリックの響きもガラリと変わってくる。「ヒップホップスター」になるという果てしなく遠い夢への「闘いの音楽」――"My Words"の魅力が存分に伝わってくる。

だからANARCHYの隣で、漢が「Thug My Life!!」とか「争う! 時にどつきあう!」などと似たようなラップをしていると、そのあまりの得体の知れなさと、敵の見えなさに鼻水が止まらなくなってしまうのだ。ある意味、この曲にもSEEDAの"Mic Story"と同じで、いま誰の手にコインが渡っているのか如実にわかってしまう物悲しさがある。

Sunday, December 02, 2007

微熱メモ vol.5 : Who killed underground hip hop? - TTCの大脱走

先鋭的なヒップホップの歴史とはこれすなわちTTCの歴史である。
以下のメモは、目下の考察事項である「アンダーグラウンドヒップホップの衰退」を解く手がかりとなるはずの2002年から2004年にかけて「先鋭的」とされたヒップホップや時代を象徴したヒップホップの一覧。並べられた作品を見ているだけでも何かがわかった気になれる、気がする。

□ 2002


Clipse "Grindin'"
Nas "God's Son"
Cee-Lo "and His Imperfection"
Common "Electric Circus"
N*E*R*D "In Search Of..." [生音盤]

Steve Lenky Marsden "Diwali"

VA "Urban Renewal Program" (Chocolate Industries)

El-P "Fantastic Damage"
RJD2 "Dead Ringer"
Buck 65 "Square"
Anticon "We Ain't Fessin"
Eyedea "The Many Faces of Oliver Hart"
Sage Francis "Personal Journals"
Noah23 "Quicksand"
TTC "Ceci N'est Pas Un Disque"
Dälek "From Filthy Tongue of Gods and Griots"
VA "Documenta III, III.I" (Agenda)


・Diwaliほかプログレッシヴなダンスホールレゲエによって、Neptunes/Timbalandだけだった商業ヒップホップの動きが皆揃っておかしくなりだす。
・"Apache" を豪快に使った"Made You Look"やJames Brownの"The Boss", "Funky Drummer"を用いた"Get Down"などを収録し、ストリートに回帰した"God's Son"でNasは長年の低評価を跳ね返すことに成功。
・Anticon "We Ain't Fessin"の一曲目は、TortoiseのJohn Herndonプロデュース。前年のHood "Cold House"からポストロック勢との邂逅が続く。
・Plague Languageをはじめとするカナディアンナードラップが隆盛。
・アヴァンヒップホップがクールだったというムードは、エレクトロニカのレーベルからアンダーグラウンドヒップホップがリリースされることが多かったということからも伺い知れる(Vertical FormからSixtooのアルバムが出ていたことも記憶に留めておきたい)。Peacefrogのサブレーベルからリリースされた"Documenta"シリーズはその象徴で、Def JuxやMushのみならず、Galapagos 4 やPeanuts & Cornまでが網羅されている。
・TTCの"Ceci N'est Pas Un Disque"にはDose OneやDJ Vadimが参加。この頃は割と普通のアンダーグラウンドヒップホップだった。


□ 2003


Lil Jon & The Eastside Boyz "Get Low"
50 Cent "In Da Club"
T.I. "Trap Muzik"
David Banner "Mississippi"
Outkast "Speakerboxxx / The Love Below"
Jay-Z "The Black Album"

Dizzee Rascal "Boy in Da Corner"

VA "Lexoleum" (Lex)

Bleubird "Sloppy Doctor"
Busdriver & Radioinactive with Daedelus "The Weather"
9th Wonder "God's Stepson"
L'Atelier "Buffet des Anciens Eleves"


・"Get Low"の大ヒット。「馬鹿でクール」なヒップホップが台頭しはじめる。
・それに耐えられない人のためにT.I.やDavid Bannerといったまともにラップできる人たちが似たようなスタイルで秀作をリリース。それらを総称して「クランク」という言葉が定着する。
・イギリスからDizzee Rascalという怪物が現れる。
・一方、Jay-Zの引退をかけて作り上げた"The Black Album"が大ヒット。01年の"The Blueprint", "Stillmatic"にはじまるJay-Z, Nas両名の「シリアス」なムード作りによって、リスナーがアンダーグラウンドからメジャーへ着実に流出していったが、最終的には9th Wonderが"The Black Album"に辿り着くことによってアンダーグラウンドの持つ「ストリート性」は完全にメジャーにバトンが渡ることとなる。
・Outkastの"Speakerboxxx / The Love Below"がヒップホップの解釈を更新し、しかもロックなどの他ジャンルにも大きく評価される。
・ナードラップが飽和しはじめ、収拾がつかなくなる。そんな状況の中、アンダーグラウンドシーンの象徴だったサイトHHIが閉鎖する。
・今をときめくInstitubes初のリリースがTeki, Tacteel,Para One, James Delleck, Fuzati, CyanureからなるL'Atelierのアルバム。内容はエレクトロニカ×アンダーグラウンドヒップホップ。


□ 2004


Kanye West "The College Dropout"
Usher "Yeah"
Snoop Dogg "Drop It Like It's Hot"
Federation "The Album"

M.I.A. "Galang"
VA "Rio Baile Funk: Favela Booty Beats"
TTC "Bâtards Sensibles"
Lethal Bizzle Records "Forward Riddim"
VA "Run the Road"
M.I.A. & Diplo "Piracy Funds Terrorism"

Danger Mouse "The Grey Album"
cLOUDDEAD "Ten"
TOCA "Dancing with Skeletons"
Murs & 9th Wonder "3:16"
Noah23 "Jupiter Sajitarius"


・cLOUDDEAD解散。
・Peanuts & CornやNoah23などの作品で脱ナードラップの色合いが濃くなる。
・不調が続いていたDef Juxから出たMurs & 9th Wonder "3:16"は実験的な要素を抜いた正統派の「ストリートアルバム」としてヒット。良作も、評価的にはJay-Zに遠く及ばず。
・アンダーグラウンドヒップホップの売りの一つであるインテリジェンス/非マッチョなメンタリティまでもがKanye Westに持っていかれる。
・Danger Mouseがビートルズのサンプルのみで作り上げた"The Grey Album"が出自とはまったくの関係のないマッシュアップの文脈でNMEから世界中へと火がつき、ヒップホップのリミックス(マッシュアップ)では異例の大喝采を受ける。
・Dizzeeからの流れでイギリスのグライムシーンが注目を浴びる。
・上記リリースリストから見られるような混沌とした時代の寵児としてM.I.A.が"Galang"でセンセーショナルなデビューを飾る。あまりにも得体が知れないその雑食性の高さから、当初はグライムの文脈だとも誤解された。
・そのM.I.A.のネタ元として一番大きいバイレファンキが発見され流行。
・TTCの"Bâtards Sensibles"にはアンダーグラウンドヒップホップ的要素一切無し。代わりにエレクトロやスクリュー、クランク的な要素が取り込まれていた。