Tuesday, December 29, 2009

Futuristic whatever

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数ヶ月前にTHE SOURCE日本版vol.2で、90年代後半のアンダーグラウンドヒップホップと現在のミックステープシーンの類似性についての小さい記事を書いた。インターネットとCD-Rの普及によって無名なアーティストがレーベルの力に頼らず自分達だけの力で作品をリリースしてリスナーから発見されていった過程と、オンラインストレージサイトやyoutubeから楽曲をばらまいてリスナーから注目を集めていく構図は"DIYでリスナーを獲得する"という部分でまったく一緒だが、「ヒップホップの主流から逸脱していく」という変態的な特性でも非常に似通っていて、ときどき既視感を覚える。

90年代後半のLAアンダーグラウンドでは、グッドライフカフェ周辺のラッパーが他のMCのスタイルとの違いをつけるために、歌なのかラップなのかわからないような独自のフロウを1人1人身に着けていた。聴き取れないほどの早口スタイルや、つんのめるようなスタイル、ダラダラ気だるく漂うようなフロウ……それは、当時LAアンダーグラウンドシーンが実験精神にあふれ、才能のあるMCが数多くいたからこそ発展していたラップの型だった。同様にいま、多すぎるプレイヤーの中から埋没しないために個性に磨きをかけ、鼻歌とラップの境目のようなへばりつくフロウを練りあげ、かっこいいと蕩れるよりもキモいと眉をひそめるひとの方が多そうな変態的なラップ―「Futuristic Swag」や「Blackboy Whiteboy」と呼ばれるようなスタイルがアトランタから日々開発されている(LA Da Boommanの発声がBusdriverに似ているのも何らかのシンクロニシティだろう)。

アンダーグラウンドヒップホップの中心的な存在だったANTICONは「黒人がつくるヒップホップではない、白人のヒップホップとはどういうものなのか?」という命題へ真正面から向き合っていた。彼らは白人が好んで聴くロックやポップミュージックに接近し、キックもスネアも無いフラットなドローンやノイズに鼻歌をのせたようなものまでもを"ヒップホップ"として成立させてみせ、オーセンティックな"ヒップホップ好き"とは異なる、オルタナティブな音楽を好む層までもをファンに取り込んだ。彼らがつくるヒップホップにはファンクネスが微塵も無いのだけども、実験精神が根底に流れる秀逸なアートとして成立していた。

Yung L.A.やYoung Dro、そしてTravis Porter、Roscoe Dashに代表されるようなアトランタの一部のラッパーがつくるヒップホップにはANTICONと同様に過去の白人音楽が取り入れられている。しかし、彼らは白人文化に「Black Boy Swag, White Boy Tags」という謎のお題目をかかげ、ファッション/スタイルの方向からその音楽を吸収し、ストリートやクラブで鳴るパーティーミュージックに仕立てあげた。決して煌びやかな極彩色のネオンにはなりきれない、16bitのゲーム音楽のように歪に断片化されたファンシーなメロディーとループ。それはHudson MohawkeやNeil Landstrumm, Gemmyなどから芸術性を根こそぎ引き剥がしたようなダサさスレスレの肉感的なビートとなって、ストリートミュージックとしても説得力のある凶暴さと万人が楽しめるコミカルなエンターテイメント性までもをほとんど偶然に獲得できている。

彼らがつくる音楽にはファンクネスというより、実験精神が頻繁に顔をのぞかせるという意味でANTICONとほとんど同じで、もはやヒップホップと呼べるものなのかも極めてあやしいが、ヒップホップ以外にカテゴライズできる場所がない。10年前のアンダーグラウンドシーンと現在のアトランタシーンの違いは、10年前にネットを利用していたアーティストは白人のインテリやナードばかりだったのに対し、いまネットを利用してプロップスを得ようと行動しているアーティストは郊外やゲットーにいるハスラー/ヤンキー/学生/中年親父などにそのバックグラウンドが変わった点だ。その相違点には、アーティスティックな音楽性に惹かれる"オルタナ音楽ファン"が拒絶反応を示す下水溝のように大きな隔たりがあるけども、その下水溝の先にはより猥雑でより尖ったユースカルチャーを追い求めるビートマグロな音楽ファンを魅了できる光が差し込んでいるように思える。


関連ダウンロード

Rich Kids "Money Swag"
http://rapidshare.com/files/318245179/RK_-_MS.rar

Travis Porter "I'm A Differenter 2"
http://www.megaupload.com/?d=X90GLTY4

J. Money "Mr. Futuristic"
http://www.zshare.net/download/5632106227e4ca10/

Young Dro & Yung L.A. "Black Boy White Boy"
http://rapidshare.com/files/181900811/....rar

Yung L.A. "I Think I Can Sang"
http://limelinx.com/files/f1798b0e971b3896c581fec7af20a400

J. Futuristic & Yung L.A. "Batman & Robin (Superhero Language)"
http://rapidshare.com/files/320886882/....rar

Kirby Tha Hottest "I Got White Friends EP"
http://www.megaupload.com/?d=85PQGS8V

DJ Scream & K.E. presents LA Da BoomMan
http://www.mediafire.com/?mmkgtitwyjm

LA Da BoomMan & Roscoe Dash "Southern Takeover"
http://www.sendspace.com/file/o1rvur

Juney Boomdata "Futuristic South Stars"
http://www.sendspace.com/file/ntxmk9

Wednesday, December 02, 2009

Pill - 4075: The Refill






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景気が悪くなるとヒップホップが活性化する――その言い伝えが本当ならば、黒人若年層の失業率が34.5%となった現在のアメリカのヒップホップは生気に満ち溢れているはずだ。しかし、景気の悪化で音楽がまったく売れなくなってしまった結果、商業レーベルは「確実に売れる安全な」アーティストの作品を欲し、ヒット曲の存在しないアーティストはアルバムを発売することさえ許されなくなった。気がつけば、ストリートからトレンドを発展させてヒップホップの"若さ"を保つ好循環は断ち切られ、向上心を捨てた豪華客演陣に頼りきりの妥協の産物がチャートの上位を占めるようになっていた。Jay-ZはAlicia Keysと手を組み「ニューヨークはお前を輝かせる」という観光PRのような曲を1位に送り込み、Rick Rossは"Deeper Than Rap"で童子-Tの"12 Love Stories"に匹敵する己の存在感を無に帰した着うたラッパーの完成形を見せ、Gucci Maneはファンの誰もが望んでいないUsherやKeyshia Coleとの共演を強制させられ、アルバムというフォーマットはアーティストの評価を固めるものではなく金を得るためだけの道具に成り下がった。

かくして、才能を持った数多のアーティストが作品を流通させる術を失った。せっかく曲を作っても、きちんと広告を打ち、パッケージを売り出してくれるレーベルは無い。そうすると彼らは、何よりもまずは自分の名前を売るためにネット上にフリーの楽曲をアップロードするようになった。無料で自分の曲を切り売りし、自分の存在を一人でも多くの人に認めてもらうことが最優先の課題となった。時代のトレンドとリスナーの欲求を貪欲に模索し、コネクションを駆使しながらいち早く自分なりの新たなスタイルを発信する。自分が作り上げた新しいスタイルがうまいことリスナーにキャッチされれば、"次のアクション"がようやく取れるようになる。リスナーとアーティストの新陳代謝が狭い(しかしオープンな)オンラインストレージサイトで活発に行われるようになり、当然、細胞が腐り落ちた商業シーンから発表される作品よりも、高いクリエイティビティとクオリティを持った作品がネット上にあふれはじめた。

たとえば、コネクションと初期衝動を武器にクランクを暴走させたWaka Flocka。Yung L.A.とJ. Futuristic(J. Money)はレトロゲームじみたカラフルなポルタメントを猥雑にたゆたい、Rich Kidsなどのさらに若い世代がその後を追う。『景気が悪くなるとヒップホップが活性化する』、確かにヒップホップの更新は音楽"業界"からは途絶えてしまったが、貧困層のパーティーミュージックは地元とネットという水面下で圧倒的な物量でもってヒップホップを少しずつ更新しつづけている。毎日のように新たなヴァースが流出/発表されるGucci Maneの魅力は、正規のアルバムを聴いただけでは10%もつかめないのだ。

そして、ただのパーティーミュージックではない社会的な視点と高い美意識を持った音楽を作っているのが、Pillやその事実上の相方となっているFreddie Gibbs、Playboy Tre、G-Sideなどだ。見捨てられたフッドの姿をそのまま映した"Trap Goin Ham"のPVで一躍有名になったPillは、アトランタの他のラッパーに比べると非常に保守的だと言っていいだろう。サンプリングを主体としたオリジナルのトラックに、Geto BoysやNas、Kanye Westなどのトラックを織り混ぜ、そのラップスタイルにはTalib Kweliのような端整さ、MJGのようなラフさ、T.I.のようなしなやかさが垣間見られる。Pillは、90年代サウス/NYから00年代ロカフェラ/トラップミュージックまで、ここ20年のヒップホップの"流れ"を一直線につなぎ、その魅力をあまさず包み込む。

ヒップホップの伝統を継承しつつも現代のスタイルを体現するPillにとって、ヒップホップと社会/生活(ストリート)の問題は切っても切り離すことはできない。幼少のころから父親はおらず、母親はクラックに溺れて死に至った。しかし、それでも自分の腹を満たすため、明日の生活のために穴の開いた靴でドラッグを売り歩き、寝床を求めて拳から血が出るまで友人知人の家の扉をノックしつづける。彼にしてみれば90年代の"ヒップホップの黄金期"と呼ばれる時代と、目の前に広がる景色は何も変わっていない。

ビート、ラップ、詩――商業の流通から消え去った現代のヒップホップの姿が地元とネットという水面下で生きながらえている。下のPillの姿とJay-Zの姿をあわせて見れば一目瞭然だろう。