Tuesday, January 13, 2009

10 + 10 = 2008



Lil Wayne
"Tha Carter III"

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自称億万長者で火星人で怪物でミサイルでライオンで犬でタランチュラでイルでクールでまだストリートに潜むけれど実はこの世界には存在しないお前ら以外の何か。マリファナとシロップに溺れながら自分はナンバーワンでオンリーワンで頭の螺子がはずれた狂った奴だという誇大妄想を見事に具象化させたギガロマニアックスである。




Young Jeezy
"The Recession"

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過剰さこそが力。過剰さこそが正義。なので息詰まる同じようなトラックの上で同じようなことを75分間言う。しかし、この乱射乱撃雨霰と音の弾幕が囲い込む逃げ場のない空間にも心休まる隙がまったくないわけでもなく、「紙幣を循環させなければならない」と経済活性化のための消費を促しながら外国産の高級車に金をはたいて富裕層をさらに裕福にする人間味溢れるお茶目な一面もあるのである。




G-Side
"Starshipz and Rocketz"

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黒人は宇宙を目指す。と言うけれど、ゲットーに生きる現代のアラバマの若者たちにとって宇宙は2,30年前よりも身近になった分、絶望的に遠い。「俺たちはストリートにいる。宇宙飛行士なんか見たことがない」。宇宙は所詮、金を持っている人たちが開拓する場所だという諦念でも込めるかのようにBlock Beatazは金の臭いのする宇宙主義の白人音楽(トランス、ヒーリング、ニューエイジ、80年代のバラード等)の残骸を掻き集めフリップさせてDungeon Family~UGK系譜の南部スムースファンクへと生まれ変わらせる。宇宙を信仰するより金を信仰するほうが現実的だった世代のアフロ・フューチャリズム。




Kanye West
"808s & Heartbreak"

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リスニングパーティーはVanessa Beecroftとのコラボレーション、ジャケはPeter Savilleの模倣(ついでにKAWSも召喚)、音はデビュー時のTerence Trent D'ArbyがRadioheadの"Kid A"に触発されたかのようで、最後の曲はTears for Fearsの替え歌、アルバム制作後にはなぜかラフ・シモンズのインターンシップを希望、と表面的な要素だけなぞっていくと浮かれきっていてるようにしか見えないけれど、Kanye Westは塞ぎこんでいる。




Flying Lotus
"Los Angeles"

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ダブステップとJ Dillaに影響を受けたクオンタイズされていないオフビートなヒップホップが世界各地で勃発する中で打ちたてられた金字塔。2000年代も終わりに向かい、2000年代初頭を震わせていたイノヴェイティヴでフューチャリスティックな音――アンダーグラウンドではエレクトロニカ、オーバーグラウンドではR&B(Missyの3rdやBrandyの"Full Moon"等)は消費され尽くし、何周かして輝きを取り戻すとともにすっかり角が取れた。当時交わることがなかったのが嘘のように二つのジャンルは同じ普遍的な音像として"Donuts"以降のリズムの崩れたFlying Lotusの世界に散在する。なぜかダブステップの文脈にも組み込まれる程度の時代の寵児。




Rustie
"Zig Zag"

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ダブステップとJ Dillaに影(以下略)。Rustie本人が言うにはAquaCrunk、日本の店ではBroken Hip Hop、イギリスでは主にWonkyと呼ばれるこのジャンルは、アンダーグラウンドヒップホップもクランクもハイフィーもR&BもBMOREもグライムもダブステップもエレクトロもIDMも飲み込み、50年代の電子音楽/60年代の初期MOOG音楽と共振して、トリップホップを刷新する。リズムから解放されようとするベクトルと留まろうとするベクトルがせめぎあうタイトル通りの曲。




Bullion
"Get Familiar / Rude Effort"

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ダ(。IDMとクランクの成分の多いWonkyの中では他ジャンルの影響が読み取りにくい。




Zomby
"全部"

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"Mush", "Strange Fruit", "Where Were U in '92? LP", "Zomby EP", "Rumours & Revolutions", "The Lie"とやたらと色んな曲を作るうえに人格に難があってdubstepforumから垢BANまでされるZombyさんマジパネェ。




Quiet Village
"Silent Movie"

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音のバランスをいじっているとはいえ、Chi-Litesを引き伸ばしただけの曲、坂本龍一を引き伸ばしただけの曲、Andreas Vollenweiderの低音を引き締めただけの曲、などなどサンプリングというよりエディットというより良い食材に塩を振っただけで最大限に魅力を引き出しましたと言われたような気分になる作家性とは何なのか考える気も失せる珠玉の一枚。




Machines Don't Care
"Machines Don't Care"

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基礎教養


□ 言いたいことはたくさんあるので、後に触れる

不良ラップ組



SEEDA
"HEAVEN"

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NORIKIYO
"OUTLET BLUES"

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BES
"Rebuild"

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新しい可能性組



Lil'諭吉
"Supa Hypa Ultra Fres$shhh"

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らっぷびと & タイツォン
"オーディエンスを沸かす程度の能力"

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シーン再生組



Twigy
"Baby's Choice"

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Zeebra
"Jackin' 4 Beats"

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アヴァンギャルド組



Thug Family
"100% Thug"

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Haiiro De Rossi
"True Blues"

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北関東スキルズ
"Illakanto Vol.1"

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★ ふろく
横軸にハードコア主義/オルタナティブの軸を、縦軸に革新/保守の軸を置いて08年話題盤を整理してみた。ハードコア主義の保守方面に行くと日本語ラップリスナー向け、オルタナティブの革新方面に行くと新しいリスナー獲得の方向に流れるものとイメージしている。

ハードコア主義へ向かえば向かうほど革新から保守に反転していきやすい印象や、オルタナティブの保守には新しさをめざしつつも既存文脈に足元をすくわれているようなちぐはぐな印象があるけども、その辺は今後少しずつ掘り下げていきたい。