Saturday, April 03, 2010

Lil B



どんな音楽にも作家性は宿る。作詞/作曲がされていなくても、歌やラップがのっていなくても、雑音だろうが無音だろうが、音楽作品として世の中に出されて作成者の名前がクレジットされている以上は、そこからクリエイターの意思と個性を読み取ることができる。音楽の持つ"作家性"をそう捉えれば、レコ箱に埋もれている楽曲をつなぎ合わせて作られるビートにだってもちろん作家性は宿っているし、曲をつくらないDJのミックスにも同じものがあるはずだ。トラックメイカーからビートをもらってそこにラップをのせる時、ラッパーがクリエイトしているのは何もラップだけではない。ラップをのせるビートはトラックメイカーの作品かもしれないけども、ビートをチョイスして世の中に発表するのはそのラッパーに他ならず、そこに彼のセンスが加わっている以上は、ラップだけでなくその下で鳴っているビートにも彼(ラッパー)の作家性は宿る。

他の時代に他の場所で他の誰かがつくった曲を切りはがして、他の材料と貼り付け直すことで新しい音楽を生み出す"サンプリング"がヒップホップの革新的な発明のひとつだという言い分を、ヒップホップに少しでも興味がある人であれば1度は聞いたことがあるだろう。「音楽理論を知らず、楽器をひくこともできない」プロデューサーたちがつくっていた音楽は、逆に言えばレコードと機械があってボタンの押し方さえわかれば、楽器をひける必要も、楽譜を読める必要もない音楽だった。そして、そのサンプリングの"敷居の低さ"こそが、老若男女問わず様々な地域から才能を呼び込み、多様なベクトルの音楽性をその懐に取り込んで、ヒップホップの表現に大きな可能性を与えたのだ。だとすれば、同じく数多のアーティストが毎日のようにローコストで製作して、ネット上にアップロードしているミックステープの"敷居の低さ"にも何かしらの可能性があるのではないか。

たとえば、ミックステープ"Based Blunts vol. 1"を発表するまでの間、既に1000以上の曲をつくり、100を超えるmyspaceに楽曲をアップしていたLil B。膨大な数の曲をまとめた幾つかのミックステープで垣間見ることのできるLil Bの音楽性はまさにカオスそのもので、ガバやロックの上でラップをしたかと思えば、Dose Oneがつくるようなノンビートのアンビエント・アルバムを2作立て続けに無料で発表し、その一方で他人のトラックでラップした正真正銘のミックステープを有料で配信したりする奔放っぷり。

そもそも90分以上あってCDに収めることもできないミックステープをiTunesに平然とリリースしたり、ソロアルバムをリリースすることには目もくれずmyspaceに楽曲をアップしまくったり、ミックステープをつくったはいいけど曲順が決められていなかったり、楽曲をつくる以上にPVを撮りまくっているような姿勢に「ヒップホップをクリエイトする」という概念そのものを覆そうとするLil Bの意図を深読みすることもできるが、それ以上にきっと多くのリスナーはミックステープやmyspaceで聴くことができる"捉えどころのないスタイル"に興味を惹かれるはずだ。

テクノ、ロック、ソウル……あらゆる音楽をジャックして自分のスタイルにしてしまうLil Bは、ヒップホップのビートだけでなくアンビエントのメロディまでを自身でつくりだすことのできる才能にも、Clams CasinoやSquadda BやEmyndといった先鋭的なビートをつくるトラックメイカーにも恵まれているが、果てしなく膨張していく彼のスタイルはLil Bとその仲間がプロデュースした楽曲が幹になっているというよりは、ジャンルどころか地域性も時代性も選ばない「どこかの誰かがつくった音楽」すべてを源泉として、それを乗っ取ってしまうことで確立されている。

"楽器をつかって演奏"したり、"機械をつかってビートを作る"のだけが音楽をつくる方法ではない。"他の誰かの曲を乗っ取ってしまう"方法でも同じように自分の音楽をつくることができる。他の誰かがつくったドープな曲は勝手にジャックして自分の曲にしてしまえばいいし、それが飽きたら別のものに乗り換えればいい。ラップをのせるための楽曲を「イケている」と思って選んだのならば、その曲には自分のスタイル(作家性)が顕れている。自分のスタイルを表現することへコストをかける必要は無いし、昨日までのスタイルを使い捨てする行為に勿論罪は無い。

存在を世の中にアピールしつづけなければならないアーティスト達は日常的に新しいスタイルをジャックして、自分のスタイルが他の誰かにジャックされるサイクルに身を置いているため、楽曲のモードがどんどんシフトしやすく流動的になっている。いままでのスタイルを保守する、あるいは構築/発展させていくというポリシーを持った鈍い動きのアーティストがいる一方で、スタイルを使い捨てて乗り換えていくモード志向のアーティストがこれから先もどんどん現れてくるだろう。ミックステープというフォーマット特有の構造と、アップローダーやコミュニティサービスから成るネットワーク・インフラはアーティストのスタイルを"守る"ものから"乗り換える"ものへ概念を大きく変えている。

何も「革新的」という言葉は、ラップやビートの音楽性やアプローチに対してだけに使われる言葉では無い。少なくともLil Bは、Anticonが多様な音楽性をヒップホップへ取り込んで育んだ"白人のヒップホップ"のスタイルよりも、さらに幅広い音楽性をジャックして攪拌させたような複雑に入り組んだスタイルを獲得できている。









関連ダウンロード

Digital Dripped - Lil B Archives
http://www.digitaldripped.com/lilb.htm

Lil B "Based Blunts vol. 1"
http://www.megaupload.com/?d=AH5128EY

Lil B "Paint"
http://limelinx.com/files/07a359ce5df56a5a2b7e0c905ea73988

Lil B "Dior Paint"
http://limelinx.com/files/1b7117ecdf02bfbafd50b5f4063427b4

Lil B "Based God" (Unofficial)
http://www.zshare.net/download/707414460ee0ba7b/