Thursday, February 02, 2012

SNEEEZE - DEVICE(発売前レビュー)と "ニュータイプ"がつくるリアルについて



SEEDAから端を発したハスリングラップの"リアル"という概念についてはこのブログで過去にいろいろ書いてきたけども、今回はJPRAP.comのbenzeezyが主宰するレーベル『rev3.11』からリリースされるラッパーSNEEEZEのアルバム『DEVICE』の発売前レビューやネットから発信される若手ラッパーの音源の紹介を交えながら、ハスリングラップから脱皮して日本のヒップホップに新しく芽吹く"リアル"について書こうと思う。

まずは、昨年にミックステープ『Joon In Not My Name』をドロップしたMOMENTの音源から。

MOMENT "外人FLOW"

自らを"外人ラッパー"と名乗るように、韓国から日本に留学してきたコリアンラッパー、MOMENT。↑のYouTubeではリリックが出てくるのでわかると思うが、外人ラッパーといいながらも日本語がとても流暢で、韓国語と英語の3ヶ国語を巧みに操りながらラップをする。この曲でMOMENTは、母国でどんなことを教えられて、どういうポリシーを持ちながら日本でラップをしているのかを丁寧にラップしているが、日本語と英語と韓国語という3つの言語を行き来しながらラップすることで1つの言語でラップするよりMOMENTというラッパーの持つバックボーンの複雑さと、そのバックボーンから生まれるラップに対する想いの強さを効果的にあらわしている。

MOMENT "Nation's Best Kept Secret"


↑はTwitterから火がついてMOMENTの曲のなかで再生数を最も稼いだ曲。コンシャスなラップという意味では右翼ラッパーとして名を馳せるshow-kの曲もTPP問題やマスメディアへの批判、脱原発への反対論など非常に過激なテーマを扱っていてヒップホップ以外の分野でも物議を醸しているけども、"外人ラッパー"であるMOMENTが日本人の政治への関心の薄さに警鐘を鳴らすという、show-kとはスタンスは違えど同じくらい過激な内容の曲。(余談だけど、日本人を批判するこの曲のことをshow-kが評価していたのはちょっと興味深い)

SALU "Taking a Nap"


次の動画はBach Logicが設立したレーベル『ONE YEAR WAR MUSIC』からの契約第一弾アーティストとなったSALUのデビューアルバム『IN MY SHOES』からの1stシングル"Taking a Nap"。SALUはネット上の動画インタビューで「Lil WayneとBob Marleyから影響を受けた」と答えていたけども、実際の曲を聴いてみるとラップスタイルやリリックのスケール感に彼らの影響をたしかに感じさせるところが面白い。

このPVを見ると視覚的にわかるけど(実際のリリックは動画下のコメントに記載されている)、国、世界、地球といった規模のレイヤーでSALUの視点が浮かび上がって、自分達の生活のずっと先にどうしようもなく抱える大きな問題へフォーカスしていく。地球規模にまで視界が広がっていくという意味ではShig02や降神あたりも彷彿とさせるが、昨年の年末にリリースされたミックステープ『Before I Singed』の最後に収録された↓の曲も同じように非常にスピリチュアルで、Shig02や降神と同じく熱狂的なファンを生みだしそうな雰囲気を持つ。

「言葉は世界を彩るマジック/ただ文字・音・振動ではない/
世界が求めているのは愛/でもSEXに溺れて見える訳ない/
ただ無限に続いているまたトンネルくぐっている
ことにも気づかず"無限"の意味をググっている/
トンネルの外はゼロだけど神の名の下に弔いつづける」("Nightmares of the Bottom")

SALU "Nightmares of the Bottom"


自分と音楽業界の状況を"看板に描かれている女の子"になぞらえてラップしたという2ndシングル"THE GIRL ON A BOARD"もアルバムリリースに先駆けて公開されたが、生活の先に潜む深くて大きな問題を描きだすという構造自体は前の2曲と同じで、レーベルがSALUを形容している"ニュータイプ"という言葉のなかにはラッパー個人の生活の話しだけには留まらず、"もっと広い視野をもっている"新しい時代のラッパーという意味合いが含まれていそうだ。

"外人ラッパー"ながら日本の国の問題を考えてスピットするMOMENTや、SALUのギミック……私達個人の生活のずっと先にある、いずれは誰も避けることのできないとても大きな問題までマクロに視点が広がっていくという点は、SEEDA『花と雨』から始まったハスリングラップがラッパー個人の生活に対しミクロにフォーカスして鬱屈めいた個々の問題を描き出していたことと対比すると、確かに新しい切り口(ニュータイプ)のようにも思える。

……とは言っても、コンシャスな切り口、視点がマクロに広がっていくというギミックは、3年前にSEEDAが引退宣言アルバム『SEEDA』で先駆けて既に使っていたわけでそれ自体が新しいというものではない。しかしもし現在、↑に挙げたMOMENTやSALUの楽曲を聴いて"何か新しいもの"を感じたのであれば、それはいまの日本の状況がMOMENTやSALUのうたっている内容に強度を与えているからなのではないかと思う。

SEEDA "DEAR JAPAN"


SEEDA "HELL'S KITCHEN"


↓の曲は2011年3月11日のわずか2日後、まだまだ混乱が冷めないなかでYouTubeにアップされたものだが、震災の起こるまえまで「何もしないで生きるということに勇気を与えたい」というようなことをインタビューで答え、無意味な日常をただ漂うような作品ばかりをリリースしていたS.L.A.C.K.が混沌のなかでこのラップをせざるを得なかったという状況自体が相当にシリアスにうつった人も多かったに違いない。当時この曲を聴いたとき、TVの前でありえないことが立て続けに起こる状況が"リアル"になって、無意味な日常がどこかに遠いところに行ってしまったターニングポイントのように感じられた。

S.L.A.C.K.、TAMU、PUNPEE、仙人掌 "But This is Way"


2011年3月11日を境に意識したくなくても意識しなければならない山ほどの問題が目の前に積まれ、同じように見えるはずの景色が変質した。KLOOZがインタビューで「震災前と震災後でshow-kの見え方が180度変わった」と言っていたことにも象徴的だけど、『SEEDA』がリリースされた2009年当時より"大きな問題"が私達にとってリアルに響くようになったということではないか。

JPRAP.comの管理人benzeezyが主宰する『rev3.11』は、日本のヒップホップで起きている"変質"そのもの扱うレーベルとしてネーミングしたものだという。いや応なく、考え方や意識が変わってしまったアーティストとリスナーが繋がる機会を提供するレーベルだということだろう。神戸在住のラッパー、SNEEEZEはネット配信オンリーのそのレーベルからアルバム『DEVICE』をリリースする。

SNEEEZEのラップの特徴は"精神的にダメージを食らいながらも、そのプレッシャーを跳ね返して前に進もうともがく姿勢"にあるとbenzeezyは言う。

「諦めない事が強さなら/捨てれるかな自分の弱さ/
この世はさ/残酷で無残にも不平等な物でさ
妨げたい/今下げられない/ピンチに3分だけ現れない/
オレはEvery day Every night/戦いの中 昨日の自分を越えたい
<略>
痛くはないでも/もうここには居たくはない
Do or die/やるしかない/ためらっても振られるDice
運命 偶然 必然がごちゃ混ぜ/運も味方につけてRun way
どこまで行けるかさ/なんてじゃなくて息が続くまで走るだけ」("Get Ready")

SNEEEZEがあらわすこの種の葛藤は、彼が1995年に起きた阪神淡路大震災で被災して、その頃から抱えているトラウマから生まれているものだ。もしbenzeezyが言うようにそのトラウマにぶつかって"精神的にダメージを食らいながらも、そのプレッシャーを跳ね返して前に進もうともがく姿勢"をSNEEEZEのラップから感じられるのであれば、それは3.11で意識を変えられた人々にも届くものにもなりうるのではないか。

たとえば、このアルバムに収録されている"Doubt"は東日本大震災以降の国の政治や東京電力にまつわるメディアや情報に対する不信をテーマにつくられたような、『DEVICE』のなかでも最もコンシャスな曲だけども、そんな中にも少しばかりの希望が描かれる。

「ネット,メディアに人は踊らされ/We can't control/でも人は流れ
涙またどこかで枯れても落ちても/Nobody stop that
Hard pressure 波に飲み込まれる/現実逃避ドラマのワンショット
TV, NEWSにBadな話に/さえない政治に無意味な正義
何かを変えれば良くなる/時間はかかるけどまた良くなる
喜怒哀楽上手く使い分け/Pressure Pressuer/上手く潜りに抜ける」("Doubt")


MOMENTの曲は先に挙げたコンシャスなものより大学での生活やモラトリアムや、身の周りの苛立ちや悩みをうたい、『DEVICE』のSNEEEZEの曲は自己の葛藤から生まれる。そういった意味では彼らのラップはハスリングラップでうたわれていた(彼らが自分の身近な物事についてうたっていた)"リアル"にとても近い。

しかし彼らの怒りや葛藤(という単語があらわすものより彼らの曲はもっとクールに聴こえるが)が私達の目の前に立ち塞がり、いずれは解決しなければならない"問題"に向かうとき、それらの問題が"リアルなもの"として浮かび上がってくる。SWAGと言われるUSのヒップホップのモードをファッショナブルに着こなしながら、この新しいレイヤーの"リアル"を提示しているラッパーを"ニュータイプ"と呼ぶのなら、なんとなく説得力はある。