Sunday, June 29, 2008

Lil Wayne - Tha Carter III






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やる気が無いのでもなく、だらしないわけでもない。プロメタジンとコデインに溺れたWeezyのラップはただただテキトーなだけ。どんな誰よりテキトーにラップに向き合っているくせに"I control Hip Hop"と自慢げに語ってみせ、実際小憎らしいことに99%のラッパーは彼に敵わない件。

あっさりと作り上げたミックステープやネット上に流出されるMP3の出来栄え、その数とクオリティの凄まじさにWeezyのアルバムへの期待は天井を知らず上るだけ上った。しかし、当の本人は「忙しいので歌詞なんて書いている暇がない」と言い張り、渡されたビートを初めて聴いてから30分で録音を終え、どこへともなく消えていく。「もっといい曲にできたはずだ。アイツはただフリースタイルしただけだ。Lil Wayneじゃなかったらラジオでオンエアなんかされなかっただろう」とは"A Milli"を作ったBangladeshの弁。

Kanye Westが2小節のループだけ作り、あとはDeezleがドラムだけ足した、なによりも手抜きだということだけはひしひしと良く伝わってくるビートに何かを閃き、そのからっからなビートの情熱を更に下回るほどの気力が加えられたフリースタイル曲"Let the Beat Build"こそが本作の目玉。「俺は火星人だ」とのたまい、「クリシェにだけはなりたくない」、「あれは一度やったからもうやらない」と偏執的なほど他人と同じでいたくないと願うWeezyが地球上の万物の期待を残念な形で裏切ってようやくたどり着いた高度な結論。

しかしこの曲を聴いていると、こないだのトップランナーでのKREVAへのインタビュー、そのなかでの「ヒップホップの魅力とは?」というベタな質問に対する回答「曲を聴いて、『こんなんでいいのか?』と思えるところが魅力」という言葉にすごく共感できる。

訳判らんリリックやパンチライン(MF DoomとかNippsとか)、ビートでいえば"Come Clean"や"Laffy Taffy"もそうだけど、音楽の革新性は常に「テキトーさ」の中に多分きっとある。なぜなら「テキトー」なものこそが「想像の余白」を生み、「想像の余白」こそが「作品の面白味」を生むから。そしてLil Wayneはビートやリリックだけでなく、ラップスタイルでもテキトーなものが面白いと教えてくれた。きっと、どんなものでもテキトーなものが一番スキルフルなんだろう。なんか天啓を受けた心持ちだ。私も今後ずっとテキトーに働いていこうと思った。