Saturday, February 05, 2011

G-Side - The ONE...COHESIVE


いままでほとんど眼中になかった地方のヒップホップをYouTubeやミックステープから手軽に視聴できるようになって耳にする機会も増えたお陰で、俄然その魅力に取り付かれてしまった。その興味の穴埋めで90年代後半から00年代前半のギャングスタラップを中古屋で掘り起こしているのだけども、地方の吹き溜まりのラップを聴くにつれて、「インターネットの発達に伴い、音楽には距離の概念が薄れて地域性が無くなりつつある」という考え方に疑問を持つようになってきた。

昔のマイナーギャングスタラップから聴き取れるのは「当時流行っていたスタイルや音楽性」に他ならず、とどのつまり、10年前だろうが、20年前だろうが、インターネットが無い時代に地方のヤンキーがつくっていたヒップホップに地域の持つ独特な空気を感じられることのほうが稀だった。彼らが作るヒップホップはそれぞれが忠実にNO LIMITや、Cash Moneyや、Timbalandや、Dr.Dreや、2Pacのパクリであって、その参照元の違いが"地域性"のように見えているだけだった。一部の才能あるアーティストが作るヒップホップの影響力を"地域性"の源と見なしてしまえば、「インターネットが音楽の持つ地域性を失わせつつある」という言葉をそのまま地方のヒップホップへ当てはめることに抵抗を覚えてしまう。

G-Sideが"The ONE...COHESIVE"のあらゆる曲の中で「俺達はインターネットから有名になった」と強調するように彼らのファンの大半は、インターネットという"地域"の中にいる。ハンツビルのような過疎地にファンを集めることの難しさを考えると、インターネットをひとつの地域と見做してしまって、そこで自らのファンを集める方法を模索するほうが簡単なのかもしれない。インターネットを、世界を繋ぐ架け橋として見るのではなく、ファンを獲得するための"ひとつの地域"として見てしまえば、そこで活動するアーティスト達の「地域性の無さ」にも合点がいくし、一部の才能あるアーティスト達がインターネット上に築きつつある独特なムードに注意がひきつけられる。

G-Sideの作品群、"Starships & Rocketz"(08年)、"Huntsville International"(09年)、"The ONE...COHESIVE"(11年)を並べてみると、Wiz Khalifa周りやクラウドラップともシンクロする90年代回帰的なローファイヒップホップの流れを聴き取ることができる。チョップされた上ネタを再構築してスペーシーな曲を作り上げていた"Starships~"と、上ネタは原曲をそのままにドラムだけを足したような楽曲が目立つ"The ONE~"を対比してみると、"Starships~"の方がよりヒップホップマナーに近いところにあるように聴こえるのが面白い。原曲そのままのメロディラインが強調された楽曲群は、ヒップホップの枠組みからも解放されたような"自由さ"を持って2010年以降のムードを形作っている。

言ってしまえば、Lil Bを筆頭にクラウドラップの面々がつくっている独特な"自由なムード"こそが、いまインターネット独自の"地域性"と呼べるものだろう。特に、今回レビューの対象にあげたG-Sideの"The ONE~"は、ヒップホップマナーから解き放たれ、箍が外れたような部分が強調される反面、それを理性で押さえつけた折り目正しいスタイルがアクとなってせめぎ合い、微妙なバランスで成立していて、そこが大きな魅力となって出てきている。インターネットで培った"自由なムード"のなかにも、どうしても生真面目さが抜けきれない感じというか。

また、地域性云々の話は置いておいたとしても、いままで雑誌やラジオやTVがリスナーに届けていたヒップホップと、インターネットがリスナーに届けるヒップホップの質は変わってきているとは思う。Odd FutureのTyler, the Creatorがありとあらゆるメディアに取り上げられたことや、Wiz Khalifaの"Black and Yellow"が全米ヒットチャートの1位になったことや、Lil WayneやGucci Mane、Nicki Minajiの成功を見ればわかるようにインターネットは彼らの"キャラクター"を前面に押し出し、そのイメージを波及させる。それこそ"音楽性"よりアーティストの持つ"キャラクター性"の方に注目が集まっているような印象をも与えるのは、旧来のメディアに接するときには自ら音楽の情報を得ようとする意識や姿勢があったのに対して、インターネットから垂れ流される情報を受け身で得る人が増えたせいかもしれない。何にせよ、パッと見てわかりやすいイメージや興味を惹くキャラクターは、「楽に他人に伝える」という目的のもとに利用されるインターネットメディアとの親和性が高いようだ。

つまり、インターネット上での評価は、まずアーティスト個々のキャラクター性ありきで行われる。ここ数年で大きくプロップスを上げてきた先のアーティストの面々を見ても、彼らのつくる曲のクオリティの良し悪しだけでなく、曲のなかで表現される"キャラクターの強さ"こそが鍵になっている。だから、Curren$yよりわかりやすいキャラクターイメージを持つWiz Khalifaのほうが評価されたし、The Packのなかでは言うまでもなくLil Bなのだ。

G-Sideを振り返ってみてみると、彼らのつくる楽曲自体の面白さやクオリティは他のアーティストと比較してもまったく引けをとらないし、アンビエントなローファイヒップホップのクリエイターとしては先駆者のアドバンテージもある。しかしそれでも、ムーブメントの顔にもなれず、いまいちブレイクし切れないのは彼らのキャラクターが決定的に弱いせいだろう。もし彼らが自分達の言うように"インターネットで成り上がる"と腹を決めたのであれば、曲の中で「俺達はインターネットから有名になった」という他にもっと何か表現することがあったはずだと思うのだけど……。この"The ONE...COHESIVE"だけでなくこれまでリリースされてきたアルバム/ミックステープの出来は全て申し分無く、時代の先端を行っているグループだけに、その波及力の無さがなんとも口惜しい。



□ 2010



Waka Flocka Flame
"Flockaveli"






Kanye West
"My Beautiful Dark Twisted Fantasy"






Wiz Khalifa
"Kush & OJ"






Lil B
"6 Kiss"






Young L
"L-E-N"






Stunnaman
"Legendary"






Tyler, the Creator
"Bastard"






Earl Sweatshirt
"Earl"






Mellowhype
"Blackendwhite"






Roach Gigz
"Roachy Balboa"






Starlito
"Renaissance Gangster"






Starlito
"Starlito's Way 3"






Big Boi
"Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty"






Gunna Dee
"Hustler By Nature"






ECD
"Ten Years After"