Sunday, September 12, 2010

Odd Future Wolf Gang Kill Them All

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00年前後に支持を集めてムーブメントを起こしていたアンダーグラウンドヒップホップが03年ごろを境に失速し、廃れていってしまった原因は幾つも考えられる。アマチュアの増加に伴う粗雑な作品の乱立。方向性を見失ったプロダクションのマンネリ化。ファンコミュニティや通販サイトの閉鎖etc...

何より、メインストリームの"カウンター"であったはずのアンダーグランドヒップホップが、その意味を持ちえなくなってしまったことが失墜の最大の原因だろう。アーティストの意向よりも、金儲けが優先され、クリエイティビティを失った商業主義的なヒップホップに対するアンチテーゼ。それこそが、アンダーグラウンドヒップホップの最大のモチベーションで、最大の存在理由だったはずなのに、Jay-Zの"The Blueprint"あたりを皮切りにメインストリームヒップホップは矜持を取り戻し、アンダーグラウンドヒップホップはアマチュアの手垢にまみれた多くの駄作と一緒に沈んでいった。

思い返せば、アンダーグラウンドヒップホップの金字塔"Hip-Hop Music for the Advanced Listener EP"がリリースされたのが98年。当時、Anticonが「オルタナティブヒップホップのさきがけ」として注目を受けたのは、ポストロックに影響を受けたその独特な音楽性に拠るところが勿論大きいけども、"Anticon"というクルーそのものの特異さが引き金となっていたところも見逃せない。

東海岸、西海岸、中西部、カナダの各地方のヒップホップオタクがインターネットで繋がって97年に結成されたAnticonは、ポストロックやエレクトロニカを混ぜ合わせたり、ラップではなく鼻歌をビートにのせたりしながら、これまでにない斬新な発想のヒップホップを作り出していた。しかしながら、彼らが同時代の他のグループと比べてさらに変わっていたのは、その独特な音楽だけでなく、デザイン画や風景写真でつくられたジャケットや、Tシャツやキャップなどのファングッズ、広告/流通を含めて全て自分達の手でクリエイトしていたところだ。

「Independent As Fuck」という言葉はその数年前にCompany Flowが使っていたものだけど、DIYで音楽を作りながらヒップホップ概念を覆し進んでいくAnticonというクルーは、まさに商業の流通にのってパッケージ化されていくヒップホップに対するカウンターそのものだった。「ヒップホップとは何か? 本当のクリエイティビティは何か?」を問いかけていたAnticonの影響力はすさまじく、ナードラップと呼ばれる同じ音楽性を持つ作品がたくさんリリースされた。その後の失墜は先に書いたとおり。


話はここで少し変わるけども、以前にレビューでも取り上げたLil Bの影響を受けたアーティスト達が増えてきているらしい。たとえば、Tyler, the Creatorを中心として、Earl Sweatshirt、Domo Genesis、Hodgy Beatsといったラッパー/トラックメイカー~イラストレーターまでが集うOdd Future。Tumblrからいままでにリリースされたアルバムやミックステープをダウンロードできるが、彼らの音楽にはLil BやWaka Flockaなどの新進気鋭アーティストの影響だけでなく、MF DoomやNecroやAesop Rockに比較されることからもわかるように往年のアンダーグラウンドヒップホップと同種の雰囲気をまとっているところが大きな特徴だ。

それこそ、猟奇的なレイプを妄想してつくった曲や、世の中に対する不満を「FUCK」で埋め尽くす曲、自分を見捨てて去っていった父親に対する怨みをぶつける曲など、10代のラッパーならではのフラストレーションが噴出したラップが多く、描かれる"世界"の捉えどころのなさも00年アンダーグラウンドヒップホップに近いものがあるが、彼らはまだ10代のキッズであること、そして過去のヒップホップ知識をそれほど持っていないことを考えても、00年アンダーグラウンドから影響を受けたわけではないところが興味深い。あくまでOdd Futureは、"いまの時代のヒップホップ"をインターネットツールだけでなく、動画編集ソフトやアートツールを駆使しながらクリエイトしている。

Tyler, the Creatorは古臭い中年ラッパーをDISったりしているけども、実際、CD媒体や金をかけたPVや広告/流通とのコネクションなど既存の枠組みに捕らわれながら窮屈にヒップホップをつくっているアーティストや組織すべてに対する"カウンター"となっているのがOdd Futureというクルーだ。過去のヒップホップが持っていた"DIY精神"が、インターネットで手軽に広げられる流通やアートワークや映像の分野まで範囲を広げ、20代をこえたインテリやナードだけでなくストリートの子供にまで根を下ろすようになってきた。

いまの時代、キッズだけでも集まれば自由にヒップホップをクリエイトできる。いままで様々なアーティストが商業主義のヒップホップへ自主制作精神で対抗してきたが、Odd Futureの存在は"商業主義"だけでなく大人たちの作ってきたヒップホップ自体に問いを投げかけている。









西海岸ローファイ新世代

■ Tyler, the Creator "Bastard" : download
■ Earl Sweatshirt "Earl" : download
■ Domo Genesis "Rolling Papers" : download
■ Odd Future "Radical" : download

■ The NRK Compilation : download
■ Δ Vritra/Walter Flowers "The Story Of Marsha Lotus/Technicolour Pyramids" : download

■ Main Attrakionz "808s & Dark Grapes" : download

■ Issue "The E" : download