Wednesday, November 07, 2007

Ice Dynasty - Dynasty -23Anthem-






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Zeebraが"World of Music "で英語を多用するのは「日本語ラップを広めるという使命を終えたから」だそうです。なるほど。気がついたらヒップホップなど今まできちんと聴いたことない方でもマイクを持って韻を踏んでPCに録音すれば全国にリスナーが生まれる時代になっていました。COMPASSのインタビューでNorikyoが「RAP書いてレコーディングするだけって、はっきり言って中学生でも出来る」と言い、フリースタイルの重要性を改めて説いていましたが、「日本語ラップを広める」という目的が霧散したいまの時代はラッパー一人ひとりが「存在理由」を改めて問われているときなのかもしれません。きっとこれから先、個人個人の「ラップする目的」が如実に作品に顕れるようになっていくのでしょう。

そういう訳で「日本語ラップを広める」という使命から解き放たれた人たち(特にベテラン勢)が次にどのようなことを表現するのか非常に興味を惹かれているのですが、何も「目的意識を持たねば面白い作品は出来ない」ということを言っているのではありません。例えば、目的も無くぼんやりと日々を漂うボンクラが万年的に抱えるモヤモヤを具体化したようなRip Slymeの"Talkin' Cheap"という作品は、やはり同じようにモヤモヤを抱える多くのボンクラに共感を得て支持されました。このときに彼らが表現手段としてヒップホップを選択した理由を知りはしませんが、この時代にあって妙な使命感に縛られない「目的意識の無さ」が"Talkin' Cheap"の夢のような世界を強固なものにしているのです。

実はIce Dynastyのことをそのグループ名からしてDQNのラッパー集団であると勝手に思い込んでいました。そして実際、彼らの楽曲を聴いてみると、やっぱりDQNらしいネタ感満載のセルアウト上等なトラックの上で、頭の悪そうな典型的なセルフボースティングや金ネタやナンパネタを決して上手くは無いラッピンで決め込んでいたので「それ見たことか」と気色ばんで曲を聴き進めていたのです。しかし、その浮かれきったDQN達のテンションの陰に、ひっそりと繊細な言葉が見え隠れすることに気付いたとき「おや?」とまず思ったのでした。「いつか絶対セレブ」とのたまうOLのような上昇志向の裏で『いつか世界は無くなるのさオマエの生きた証の数々も無い / それ聞いた途端に無くなりもがく / どうせ世界が無くなるのなら生きたいように溌剌とさ / そして迎えてくれよまず明日をな』というようなことを言うのです。

アルバムの終盤まで曲を進めたとき、彼らのヒップホップは極めて純粋な「初期衝動」に突き動かされたもので、妄想的な上昇志向の中身には出口の無いニートでフリーターなDQN達のモヤモヤがたくさん詰まっていたことに気付かされました。吐かれる『始まりはSunset終わりはSunrise / 今日は何軒まわったっけクラブ? Up & Downするテンション / いつも過ぎていく一日はあっけなく…』から始まるラインには、クラブで仲間達と楽しく馬鹿騒ぎした後の空虚な日常が見事に描き出されていました。確かに"Dynasty -23Anthem-"ではDQN達がDQNなトラックでDQNなラップを繰り広げています。しかし、そこで複雑に屈折して、反射する言葉の糸を手繰り寄せたとき、そこには大きなモヤモヤがあって、それは「目的意識のない」"Talkin' Cheap"の能天気なモノとは違い、「中身の無い上昇志向」に縛られた、より閉塞的で、より刹那的で、より灰色がかった哀しいモラトリアムの上に成り立っていることがわかったのです。

『明日は明日の風が吹くだろう / Highになって飛ばす車を / 誰もいないとこに向かおう / Sky The Limit可能性は?』

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