Sunday, January 17, 2010

2009 wasted

あいかわらず09年もダサさとカッコよさが表裏一体となった作品が多かったがその中から最高にクールで最高に馬鹿げた人たちを4人。

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■ Gucci Mane "ぜんぶ" :listen

"we don't get fucked up no more we get wasted"と言うように金と時間と才能をひたすら無駄遣いするGucci Maneの魅力とは多様化して一筋縄ではいかなくなったヒップホップの姿を、彼のラップだけで体現できてしまっているところにある。大量のミックステープやリミックスワークにクロスオーヴァーするどんな難解なビートもGucciのラップの前ではすべてコントロールされ、先鋭的なビートはより先端を行くヒップホップミュージックとなる。歌詞も同様、その辺のコンシャスなラッパーよりも複雑なライミングやシリアスなストーリーテリングができようとも、そのほとんどを「俺の時計はダイヤだらけで時間も確認できねえ」みたいなどうでもいいジュエリーやドラッグの話に費やし、無意味なダサさとファッショナブルなクールさが同居した数々のパンチラインを産み落とす。その馬鹿馬鹿しいカッコよさはオールドスクールのヒップホップにも通じるが、不思議なことに他のどんなラッパーからの影響も感じさせない。


■ Waka Flocka Flame, Trap-A-Holics "Salute Me or Shoot Me 2" :download
■ LA Da BoomMan & Roscoe Dash, DJ Millz "Southern Takeover" :download

母親がGucciのマネージャーだからというだけのコネでGucciにラップを教わり、ラップをはじめてたった一年で地元をロックしているWaka Flockaは短期間でスターになったその初期衝動と高揚感で巨大なフラストレーションを爆発させる。錯乱したアルペジオ、痙攣したスネアロール、電波ソングの合いの手のようなアドリブ、Thug FamilyのTOPのようなシンプルでナンセンスなフック、どこを切り取ってもぎゅうぎゅうに音がせめぎあっていてまるで落ち着きが無い。そんな Waka Flockaの暴虐的なスタイルに感化されたかどうかは知らないが、Rosce DashとLA Da Boommanのスプリットミックステープでは、K.E.自らがカラフルな万華鏡のような広がりを持つFuturistic系の音をレーザーのように鋭角的に圧縮し、よりシャープなストリート感を持つビートに作り上げた。そんな鋭いビートの上で、Rosce Dashが調子に乗って女こどもに向けてリア充自慢を繰り広げる歌は不愉快さと紙一重な感情を掻き立て、その不愉快さを相殺するためにはさまれるLA Da Boommanのラップは何故かただひたすらにキモい。両極端に鬱陶しい2人のラッパーの自己主張は他のFuturistic系の人たちが人畜無害に思えてくるほど。


■ Hudson Mohawke "Butter" :listen

一年間これといった進展がなかったビート(Wonky)シーンでは、Hudson Mohawkeが従来の小奇麗で厳粛なWonkに80'sのR&Bやヘヴィメタルのシャープなドラム、Just Blazeのスピード感といった大味でダサいテクスチュアを織り合わせ、荒唐無稽な音楽を作ることでその存在感をアピールした。そんなHudson Mohawkeのカラフルにゆがんだメロディは、アトランタのFuturistic系やブリストルのダブステップとの不思議なシンクロニシティを遂げ、"ダサい"と"カッコいい"が両立することを多角的に証明してみせる。


関連ダウンロード

■ Gucci Mane, DJ Holiday "Writing on the Wall" :download
■ Gucci Mane "The Gooch" :download
■ Gucci Mane, DJ Drama "The Burrprint" :download
■ Gucci Mane, DJ Drama, DJ Scream, DJ Holiday "The Cold War" :download
■ Gucci Mane × Mad Decent "Free Gucci" :download
■ Waka Flocka Flame, Trap-A-Holics & DJ Ace "Salute Me or Shoot Me" :download
■ Waka Flocka Flame "Official Trap Label" :download
■ Various Artists "ATL RMX" :download


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■ Pill, DJ Skee & The Empire "4075: The Refill" :download
■ Freddie Gibbs, DJ Skee "Midwestgangstaboxframecadillacmuzik" :download
■ G-Side "Huntsville International" :download
■ Playboy Tre "Liquor Store Mascot" :download

07,8年のLil Wayneの猛攻から無名だったDrakeの成り上がり、Gucci Maneの果てしないプロップスの拡大まで、"サウスの音楽性+ミックステープの流通システム"の方程式は何にも欠かせないものになりつつある。それに伴い、有名無名の多くのプレイヤーがそのトレンドになだれこんだが、その中でも音楽性云々というより社会的テーマを意識的に作品に落とし込み、それをオーセンティックに表現できていたアーティスト4組をピックアップ。彼等は夢も希望も見出し難いどうしようもない状況の中でもがきつづける。莫大な予算が宇宙事業に注ぎこまれる町の片隅に放置されたゲットーに暮らすG-Side、映画館もショッピングモールも何もない廃墟と化した犯罪都市インディアナ州ゲイリーからInterscopeと契約したものの何もリリースできずに契約を解除されたFreddie Gibbs、T.I.等にフックを売りながら日銭を稼ぎ酒を飲みながら身の周りのやりきれないゲットーの様子をぼやく中年のPlayboy Tre、ヤク中の母親の死に直面しながらもどうにかドラッグディールで糊口をしのぎ知人の家を転々としてギリギリの生活を営むPill。ミックステープという媒体だからこそ辛うじて世間から注目を浴びるようになった四者四様のタフなプロダクションとハードなリリシズムはこの時代にこそ生まれる"クラシック"といっても過言ではない。


関連ダウンロード

■ Pill, DJ Burn One "4180: The Prescription" :download
■ Freddie Gibbs "The Miseducation of Freddie Gibbs" :download
■ Playboy Tre "Goodbye America" :download
■ Rob Breezy "Huntsville Alabama 2 – The Return" :download




■ Drake "So Far Gone" :download somewhere

インターネット上でのミックステープ配布でシングルチャート2位までのし上がったDrakeは、その"軽さ"では他の誰より勝る。ラッパーとしてはKanye WestとLil Wayneの劣化コピー以上の何物でもないし、ヒップホップや音楽の造詣に詳しいとも思えない。それでも、このミックステープにおけるLykke Li、Peter Bjorn & John、Santogold、DJ ScrewといったトラックのセレクションやアルバムにSadeを呼びたいという発言、"Forever"での豪華なマイクリレー企画の発案に、アーティストぶらない立ち振る舞い、これら全ては、Drakeが「何を仕掛ければ他人から趣味が良いと褒められるか」を熟知しているが故のもの。知識やスキルなどといった"深さ"の部分ではない、センスとフットワークの"軽さ"こそが大衆の心を掴むものだということを理解しているDrakeは、輪郭のぼやけたパッドと鈍く持続する808キック/サブベースに包まれた"軽く"て優れたポップミュージックを産み落とし、フリーのミックステープという"軽い"媒体を使って短期間で世界中の人々へその音楽を認めさせた。




■ U2K, DJ BUN "NIPHOP" :listen
■ AKLO, DJ UWAY "A Day on the Way" :download
■ Cherry Brown, Lil'諭吉 "Supa Hypa Ultra Fres$shhh 3" :download

大豊作だった08年は日本語ラップ作品のなかでもベストを絞り込むのが難しかったため、日本語ラップ枠を別に設けて10枚セレクトしたのだけども、09年は一転してこの3つで充分と判断。この3つに共通するのは現行のUSメインストリームに通じるプロダクションの新しさと、若い才能が+αのエネルギーとなって露出している点。リアル志向の作品も目新しさが無くなり、アーティスト個々の少しの差異に物語を見出さなければならなくなった09年は「深いリリックが書けて、共感できる内容になっている」かどうかよりも、「イケてるビートをチョイスして、カッコいいラップが載せられている」ことの方に目配せできている作品こそが新鮮に映るになった感がある。それは同時に日本のトラックメイカーの力量が問われるタームになってきたということでもあり、Hammer Da Hustler、Lil'諭吉、B.T.REOあたりの動向は10年もチェックしていきたい。

Tuesday, December 29, 2009

Futuristic whatever

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数ヶ月前にTHE SOURCE日本版vol.2で、90年代後半のアンダーグラウンドヒップホップと現在のミックステープシーンの類似性についての小さい記事を書いた。インターネットとCD-Rの普及によって無名なアーティストがレーベルの力に頼らず自分達だけの力で作品をリリースしてリスナーから発見されていった過程と、オンラインストレージサイトやyoutubeから楽曲をばらまいてリスナーから注目を集めていく構図は"DIYでリスナーを獲得する"という部分でまったく一緒だが、「ヒップホップの主流から逸脱していく」という変態的な特性でも非常に似通っていて、ときどき既視感を覚える。

90年代後半のLAアンダーグラウンドでは、グッドライフカフェ周辺のラッパーが他のMCのスタイルとの違いをつけるために、歌なのかラップなのかわからないような独自のフロウを1人1人身に着けていた。聴き取れないほどの早口スタイルや、つんのめるようなスタイル、ダラダラ気だるく漂うようなフロウ……それは、当時LAアンダーグラウンドシーンが実験精神にあふれ、才能のあるMCが数多くいたからこそ発展していたラップの型だった。同様にいま、多すぎるプレイヤーの中から埋没しないために個性に磨きをかけ、鼻歌とラップの境目のようなへばりつくフロウを練りあげ、かっこいいと蕩れるよりもキモいと眉をひそめるひとの方が多そうな変態的なラップ―「Futuristic Swag」や「Blackboy Whiteboy」と呼ばれるようなスタイルがアトランタから日々開発されている(LA Da Boommanの発声がBusdriverに似ているのも何らかのシンクロニシティだろう)。

アンダーグラウンドヒップホップの中心的な存在だったANTICONは「黒人がつくるヒップホップではない、白人のヒップホップとはどういうものなのか?」という命題へ真正面から向き合っていた。彼らは白人が好んで聴くロックやポップミュージックに接近し、キックもスネアも無いフラットなドローンやノイズに鼻歌をのせたようなものまでもを"ヒップホップ"として成立させてみせ、オーセンティックな"ヒップホップ好き"とは異なる、オルタナティブな音楽を好む層までもをファンに取り込んだ。彼らがつくるヒップホップにはファンクネスが微塵も無いのだけども、実験精神が根底に流れる秀逸なアートとして成立していた。

Yung L.A.やYoung Dro、そしてTravis Porter、Roscoe Dashに代表されるようなアトランタの一部のラッパーがつくるヒップホップにはANTICONと同様に過去の白人音楽が取り入れられている。しかし、彼らは白人文化に「Black Boy Swag, White Boy Tags」という謎のお題目をかかげ、ファッション/スタイルの方向からその音楽を吸収し、ストリートやクラブで鳴るパーティーミュージックに仕立てあげた。決して煌びやかな極彩色のネオンにはなりきれない、16bitのゲーム音楽のように歪に断片化されたファンシーなメロディーとループ。それはHudson MohawkeやNeil Landstrumm, Gemmyなどから芸術性を根こそぎ引き剥がしたようなダサさスレスレの肉感的なビートとなって、ストリートミュージックとしても説得力のある凶暴さと万人が楽しめるコミカルなエンターテイメント性までもをほとんど偶然に獲得できている。

彼らがつくる音楽にはファンクネスというより、実験精神が頻繁に顔をのぞかせるという意味でANTICONとほとんど同じで、もはやヒップホップと呼べるものなのかも極めてあやしいが、ヒップホップ以外にカテゴライズできる場所がない。10年前のアンダーグラウンドシーンと現在のアトランタシーンの違いは、10年前にネットを利用していたアーティストは白人のインテリやナードばかりだったのに対し、いまネットを利用してプロップスを得ようと行動しているアーティストは郊外やゲットーにいるハスラー/ヤンキー/学生/中年親父などにそのバックグラウンドが変わった点だ。その相違点には、アーティスティックな音楽性に惹かれる"オルタナ音楽ファン"が拒絶反応を示す下水溝のように大きな隔たりがあるけども、その下水溝の先にはより猥雑でより尖ったユースカルチャーを追い求めるビートマグロな音楽ファンを魅了できる光が差し込んでいるように思える。


関連ダウンロード

Rich Kids "Money Swag"
http://rapidshare.com/files/318245179/RK_-_MS.rar

Travis Porter "I'm A Differenter 2"
http://www.megaupload.com/?d=X90GLTY4

J. Money "Mr. Futuristic"
http://www.zshare.net/download/5632106227e4ca10/

Young Dro & Yung L.A. "Black Boy White Boy"
http://rapidshare.com/files/181900811/....rar

Yung L.A. "I Think I Can Sang"
http://limelinx.com/files/f1798b0e971b3896c581fec7af20a400

J. Futuristic & Yung L.A. "Batman & Robin (Superhero Language)"
http://rapidshare.com/files/320886882/....rar

Kirby Tha Hottest "I Got White Friends EP"
http://www.megaupload.com/?d=85PQGS8V

DJ Scream & K.E. presents LA Da BoomMan
http://www.mediafire.com/?mmkgtitwyjm

LA Da BoomMan & Roscoe Dash "Southern Takeover"
http://www.sendspace.com/file/o1rvur

Juney Boomdata "Futuristic South Stars"
http://www.sendspace.com/file/ntxmk9

Wednesday, December 02, 2009

Pill - 4075: The Refill






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景気が悪くなるとヒップホップが活性化する――その言い伝えが本当ならば、黒人若年層の失業率が34.5%となった現在のアメリカのヒップホップは生気に満ち溢れているはずだ。しかし、景気の悪化で音楽がまったく売れなくなってしまった結果、商業レーベルは「確実に売れる安全な」アーティストの作品を欲し、ヒット曲の存在しないアーティストはアルバムを発売することさえ許されなくなった。気がつけば、ストリートからトレンドを発展させてヒップホップの"若さ"を保つ好循環は断ち切られ、向上心を捨てた豪華客演陣に頼りきりの妥協の産物がチャートの上位を占めるようになっていた。Jay-ZはAlicia Keysと手を組み「ニューヨークはお前を輝かせる」という観光PRのような曲を1位に送り込み、Rick Rossは"Deeper Than Rap"で童子-Tの"12 Love Stories"に匹敵する己の存在感を無に帰した着うたラッパーの完成形を見せ、Gucci Maneはファンの誰もが望んでいないUsherやKeyshia Coleとの共演を強制させられ、アルバムというフォーマットはアーティストの評価を固めるものではなく金を得るためだけの道具に成り下がった。

かくして、才能を持った数多のアーティストが作品を流通させる術を失った。せっかく曲を作っても、きちんと広告を打ち、パッケージを売り出してくれるレーベルは無い。そうすると彼らは、何よりもまずは自分の名前を売るためにネット上にフリーの楽曲をアップロードするようになった。無料で自分の曲を切り売りし、自分の存在を一人でも多くの人に認めてもらうことが最優先の課題となった。時代のトレンドとリスナーの欲求を貪欲に模索し、コネクションを駆使しながらいち早く自分なりの新たなスタイルを発信する。自分が作り上げた新しいスタイルがうまいことリスナーにキャッチされれば、"次のアクション"がようやく取れるようになる。リスナーとアーティストの新陳代謝が狭い(しかしオープンな)オンラインストレージサイトで活発に行われるようになり、当然、細胞が腐り落ちた商業シーンから発表される作品よりも、高いクリエイティビティとクオリティを持った作品がネット上にあふれはじめた。

たとえば、コネクションと初期衝動を武器にクランクを暴走させたWaka Flocka。Yung L.A.とJ. Futuristic(J. Money)はレトロゲームじみたカラフルなポルタメントを猥雑にたゆたい、Rich Kidsなどのさらに若い世代がその後を追う。『景気が悪くなるとヒップホップが活性化する』、確かにヒップホップの更新は音楽"業界"からは途絶えてしまったが、貧困層のパーティーミュージックは地元とネットという水面下で圧倒的な物量でもってヒップホップを少しずつ更新しつづけている。毎日のように新たなヴァースが流出/発表されるGucci Maneの魅力は、正規のアルバムを聴いただけでは10%もつかめないのだ。

そして、ただのパーティーミュージックではない社会的な視点と高い美意識を持った音楽を作っているのが、Pillやその事実上の相方となっているFreddie Gibbs、Playboy Tre、G-Sideなどだ。見捨てられたフッドの姿をそのまま映した"Trap Goin Ham"のPVで一躍有名になったPillは、アトランタの他のラッパーに比べると非常に保守的だと言っていいだろう。サンプリングを主体としたオリジナルのトラックに、Geto BoysやNas、Kanye Westなどのトラックを織り混ぜ、そのラップスタイルにはTalib Kweliのような端整さ、MJGのようなラフさ、T.I.のようなしなやかさが垣間見られる。Pillは、90年代サウス/NYから00年代ロカフェラ/トラップミュージックまで、ここ20年のヒップホップの"流れ"を一直線につなぎ、その魅力をあまさず包み込む。

ヒップホップの伝統を継承しつつも現代のスタイルを体現するPillにとって、ヒップホップと社会/生活(ストリート)の問題は切っても切り離すことはできない。幼少のころから父親はおらず、母親はクラックに溺れて死に至った。しかし、それでも自分の腹を満たすため、明日の生活のために穴の開いた靴でドラッグを売り歩き、寝床を求めて拳から血が出るまで友人知人の家の扉をノックしつづける。彼にしてみれば90年代の"ヒップホップの黄金期"と呼ばれる時代と、目の前に広がる景色は何も変わっていない。

ビート、ラップ、詩――商業の流通から消え去った現代のヒップホップの姿が地元とネットという水面下で生きながらえている。下のPillの姿とJay-Zの姿をあわせて見れば一目瞭然だろう。



Thursday, November 19, 2009

U2K - NIPHOP & AKLO - A DAY ON THE WAY





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「HIP HOPで一番大切なことは目新しくいることなんだ。新しいなにを買ったとか、まだ誰も聴いたことのない新しいアーティストの曲をiPodに入れて聴いてるとか、そういうことが大事だろ? 逆に言うと、このビジネスで生き残るためには常に誰かのiPodに入れてもらわなくちゃいけないんだ。それには、iPod に入れたいと思わせるだけの価値あるものを作り続けなければいけない」(Jay-Zインタビュー

サイコロ一家のU2Kは自身のMIX CDで、"日本語ラップ"ではない新しい概念"NIP HOP"を旗揚げし、新しい時代のラップとビートのスタイルを模索する。Remmah the Dopest Drug(=Hammer Da Hustler)等のアンバランスだけども緻密なビートと、ルーズだけども端整なラップ、そしてほとんどがヘイター攻撃と"NIP HOP"ボーストという無意味なリリックからは、SEEDAの"エモさ"の部分ではなく"スワッグ"の方に大きく影響を受けていることがわかるという意味で、「リアルな内容の作品=優れた作品」という価値観から外れた、まったく別の価値観を育む世代が現れつつあることを予感させる。新しい概念を立ち上げ、新しいスタイルを模索し、新しい世代である自分を誇るU2Kの価値観とはつまり、「リリックがリアルであること」がヒップホップなのではなく、「新しいスワッグを持っていること」がヒップホップなのだという考えが基点にある。"ラップする内容(叙情性)"ではなく、"スタイルやファッション(叙事性)"にこそヒップホップの本質を見出す。

この11月にフリーのミックステープ"A DAY ON THE WAY"をドロップしたAKLOも同じような価値観を持つ。SEEDAとVerbal両者のフロウを混ぜ合わせたようなラップスタイル。Jay-ZやT.I.やRick RossやDrakeの最新曲/ヒット曲の上でラップしテーマを再解釈して自分の曲に仕立てあげてしまう姿勢。インテリっぽさを漂わせたオルタナティブ方面での経歴。あらゆる面で胡散臭さが鼻につくが、それでも、Hammer Da Hustlerのビートと、AKLO自身の「常にアップデートされる音楽にこそ未来がある」というヒップホップ観がそのイビツさを埋め合わせ、"A DAY ON THE WAY"にUSメインストリームに通じた"スワッグ"を付与する。「アメリカのヒップホップは確かに面白いよ 漫画みたいにいつもアップデートされてさ "やべぇ次、超楽しみ!"みたいな そんな状況を東京でも作っていこうぜ you know what it is man, 闘ってこうぜ i'm a fighter and i'm on fire / 世界中どこ行ったってカッコいいやつはカッコいい 昔カッコよかったやつが今もカッコいいとは限んねえ いつも頭ん中には追求心」("Fighter")

リリックの内容に意味を見出す「リアル志向」の流れから、アップデートされるスタイルを追い求める「ファッション/スワッグ志向」の流れへ。叙情的でリアルな楽曲がリスナーの共感を集めるのに対し、目新しさとカッコ良さを兼ね揃えた楽曲はリスナーへ刺激を与える。

もし、これまで「リアル志向」な楽曲をつくるためにラッパー達が自分の経験を削って表現していたというのであれば、「ファッション/スワッグ志向」のラッパー達は常にアンテナを張って最新のスタイルをキャッチし、自分のスタイルに吸収して曲をつくることになるだろう。US/日本にかかわらず様々な国で発生する流行を自分流に解釈して、新しいスタイルや文脈を常に更新し続ける。カッコよくて面白い物が世の中に発信されてさえいれば表現のネタは永遠に続く。流行のサイクルの早さと共に生存競争も激しくなるかもしれないが、新陳代謝の無いジャンルはいずれ途絶える。「カッコいいは正義!」という彼らの価値観は大変タフなものだけど、これからのジャンル(文脈)を刺激的なものに保つ健全なものには違いない。

「We are yeah i said it we are 新たなmovement 新たな時代 媚売らねえぜ cause i'm just amazin」("Run This Town")

Tuesday, September 29, 2009

SD JUNKSTA -Go Across tha Gami River & Kreva - 心臓





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SD JUNKSTAの面々がそれぞれのソロ作で見せる顔とは違った一面を垣間見せる。"Go Across tha Gami River"が他のクルー物の作品と一線を画している点は、このアルバムが単に自分達の存在をレペゼンしたり、仲間同士でテーマにそってマイクをまわしているだけではなく、「仲間との関係」そのものにフォーカスをあてているところだ。ヤサで仲間と戯れ、愚痴や文句を垂れあって、内輪ネタで盛り上がる。ソロ作で見せる個人のシリアスな一面から、仲間とじゃれあうリラックスした一面へ。"Go Across tha Gami River"は、これまでのクルー物(クルーが注目を受けてキャラ立ちしてから、各々の趣味趣向が反映されたソロ作をつくるという動き)の真っ向から逆を行く。


キック時代から続く"音色"へのこだわりは、NeptunesやTimbalandが全盛だったころの「間を使う」ビートから、Futuristic Swagやダブステップが全盛の今風な「間を埋める」ビートへと変遷を遂げ、立体的な音色の打ち込みと甘美なAORやソウルのサンプル、艶かしい生音のレイヤーが心地よく耳を打つ。Krevaの"心臓"は、国産ではじめて"現在"のUSメインストリームへ対抗できた(Jay-ZやRick Rossなどと並べても遜色ない)、高次元のトラック/メロディを揃えた作品として好事家のなかで語り継がれるであろう、ずば抜けた快作。リリックの内容こそ「大人の男のラブソング」と、今までの路線と変わらないけども、そんな色恋沙汰がもはや耳に入らないくらい自信に満ち溢れたラップスキルとビートのクオリティ。ラブソングだろうが、バラードだろうが、J-POPフィールドのゲストの参加も関係ない。クオリティに裏打ちされた「自信の強さ」さえあれば、優れたヒップホップ足りうることを証明してみせた。USではメロディアスなラブソングをヒップホップに昇華してしまうDrakeが人気を集めているけども、そんな海の向こうの流行すらも"心臓"に太鼓判を押す。