Saturday, May 05, 2012

ヒップホップの"地域性"の話 ~Chief Keefと田我流とUCK Japanese Gangstaと~

■Chief Keef "I Don't Like" & "Bang"

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download : "Back from the Dead", "Bang Mixtape"

同郷のよしみかKanye Westが"I Don't Like"をリミックスしたということで、一般的な認知度も高くなってきた2012年ベストハイプのChief Keef。とはいっても、Chief KeefはすでにYouTubeの楽曲が数ヶ月で100万再生を軽く超えるくらいのプロップスをティーンエイジャーを中心に獲得しているので、Kanyeにしてみれば単なるフックアップ以上の"見返り"も見込んでいそうな感じではある。

その"I Don't Like"が収録されている2ndミックステープ『Back From The Dead』だけでなく、1stミックステープ『Bang』からChief Keefはシカゴのティーンエイジャーから圧倒的な支持を受けていた。『Bang』のほとんどのビートを手がけたDJ KENNは山形県出身の日本人ビートメイカーで、2005年にニューヨークへ渡った後に、シカゴに流れ着きそこでChief Keefのオジさんに拾われた縁でChief Keefにビートを提供するようになったという逸話があり、しかも彼が手がけた楽曲のひとつ"Bang"が昨年に公開されてからこれまでに130万再生されてアメリカのキッズ達から注目をうけているという話は、ヒップホップでアメリカ人を納得させる日本のビートメイカーが出てきたという部分で日本のリスナーにとっても非常に興味をそそられるものに違いない。


"I Don't Like"


"Bang"

ただ、そのDJ KENNのビートも、『Back From The Dead』のYoung Chopのビートも巷にあふれかえる"Lex Lugerコピーのビート"と安易にくくってしまうことができるところが、彼らの作風を取り立てて評価するのが難しい部分でもある。Lex Lugerコピーの延長にある作風であればGunplayやFat TrelのほうがChief Keefより優れているという意見も多いだろうし、果たして、Chief KeefはWaka Flockaのようにオリジナルな存在なのか?Odd FutureやA$AP Rockyのように大金を獲得できるのか?

しかもビートだけの話でなく、Chief Keefのラップも単調なギャング物なので、なかなかにChief Keefというラッパーの"秀でた部分"を見つけ出すことは難しい。しかし、それでもあえて言えば彼のクリエイトする楽曲の"ミニマルな部分"にあるのではないかと思う。Lex Lugerコピーのビートの中にも見え隠れするシカゴフットワークの断片と、Lil DurkやKing Louieといった周辺の端整なラッパーと比較してみても、ひときわ枯れて平坦で単調に推移していくラップが、どの曲でも同じように何度も何度も繰り返されることで、高い中毒性を生み出す。


RP Boo "Off Da Hook"


DJ Rashad "Reverb"

ミニマルなビートとラップが中毒性の高い世界を作り出すというところで、やはりWaka Flockaを彷彿とさせる存在ではあるけども、Rich KidzやTravis PorterといったATLの10代のラッパーと比較すると、Chief Keefの殺伐とした空気感は独特だ。この若いギャングスタラッパーが持つ閉塞感はシカゴハウスやフットワーク、The OPUSやRubber Roomのソレとも非常に似通っているけども、果たしてシカゴという地域が醸し出すものなのだろうか…。


Rubbe Room "Acid"


The Opus "Road Seldom Traveled"

■ 田我流 『B級映画のように2』


ここで、話を日本のヒップホップに移す。

2011年に公開され、一部の映画ファンからの評価も高かった映画『サウダーヂ』(監督:富田克也)に準主役として登場していた田我流の2ndアルバムがこの4月にリリースされた。『CDジャーナル』の2012年5月号インタビューでは「謎を多くしているんですよ。変なスキット入れたり。その謎について考えてもらいたい」ということらしく、このアルバムの『B級映画のように2』のタイトル名にも意味はあるが、それはリスナーの想像にまかせているようだ。ただ、『サウダーヂ』で富田克也監督との仕事を通して「今までと曲の書き方が180度くらい変わ」ったという発言や、そのアルバムの題名を見ただけでも、映画がこの作品に落とした影響の大きさを窺い知れることができるし、実際に『サウダーヂ』を観たリスナーにしてみると、彼が"ロンリー"や"Resurrection"で見せる鬱屈は、そのまま天野猛(田我流の役名)が甲府のシャッター街の生活のなかで抱えているもののように、より視覚的なリアリティをもって聴くことができるはずだ。


"Resurrection"

"STRAIGHT OUTTA 138"でのECDとの共演曲などで、この作品が3.11以降の世界に住む人間が抱えた怒りも表現しているところもポイントだ。Amebreakのインタビューでは、「"個"と"社会"、"自分"と"世間"って同じだ」という発言もあるけども、田我流本人が抱える鬱屈が、3.11以降の国家や政治に対する不満や怒りとあわさって、渾然としたより生々しく聴かれるものになっている。パーソナルな感情が"社会の持つ問題"にフォーカスされていくという構造を見ても、2012年ならではの作品と言える。
(リリック面では、"ハッピーライフ"で描かれる「普通の人」は、自分たちの隣で生活している人たちであり、3.11以降の問題をつくってきている<怒りの対象にもなりうる>人たちでもあるということを露出させていて面白かったのだけど、話がずれるので割愛する)

ただ、『B級映画のように2』は地方都市に住む田我流だからこそ作ることのできた"地方のヒップホップアルバム"ではあるに違いないが、その楽曲に甲府の"地域性"が根付いているかという点に関して言うと、かなり疑わしい。『B級映画のように2』で描かれるものは、これまで書いてきたとおり「地方で活動することに対する鬱屈」や「社会への不満や怒り」だ。その魅力はあくまで田我流のパーソナルな部分にあって、甲府という土地自体はこの作品では他の地方都市にも代替可能なものだろう。

さて、では『B級映画のように2』以前ではどうだったか?


"墓場のDigger"

"ゆれる"

■ Mr.OUTLAW a.k.a. UCK Japanese Gangsta 『SAMURAI SPIRITS』


日本のヒップホップを対象に、あらゆるインターネット上の音源をアーカイブするサイト『JPRAP.com』が発見したMr.OUTLAW a.k.a. UCK Japanese Gangstaの音源に触れたときは驚いた。元々、2011年2月にYouTubeに公開された悪羅悪羅系をレペゼンする楽曲も、トランス系のビートのうえでの「悪羅悪羅」連呼というこれまでに聴いたことのない異形さを持ったストレートな表現に衝撃を受けていたのだけど(過去には悪羅悪羅系として見られるラッパーが於菟也がいたけどそういえば彼もUCKと同じく埼玉で活動しているラッパーだった)、3.11を経てつくられた2ndアルバム『SAMURAI SPIRITS』に収録されている曲は更にその方向にブラッシュアップかけたような内容になっていた。


Mr.OUTLAW a.k.a. UCK Japanese Gangsta "Territory ~悪羅悪羅~"



於菟也 "forgive me"

旧車會がバイクの爆音をなびかせる。UCKがトランス系ビートにラップをのせて3.11に亡くなった方への追悼をうたう!ダメージをうけた社会に対するメッセージをささげる!Stop The 原発!!

「3.11に大事な人を亡くした方々/
なかなか立ち直れなくて当然/
あの日以降 ただ呆然と月日は過ぎ行く/
いくら泣きじゃくっても帰らないんだ.../
俺らが叫ばないか?/心の被災者を忘れてないか?」("For JAPAN")

「勤め人が仕事頑張れば 金を使えて経済は潤う/
個人や法人が潤う イコール 金が動く/
金が動けば国は税収入が増え 凄く立派な社会貢献/
テメー事を頑張るのも復興 OK!!」("For JAPAN")



"For JAPAN"


"旧車會 ~宮城魂~"

3.11というキーワードを切り出すと↑の楽曲が特徴的なのだが、リリックも全て直球なので、1stアルバム『MESSAGE』から『SAMURAI SPIRITS』を通して聴くとUCKの人となりがとてもよくわかる。1度目の結婚がDV原因で破局したこと、愛情が強すぎて相手を拘束するヘキがあること、地元の先輩に対してものすごく恩義を感じていること、「Forever」と彫ったタトゥーの意味……。(ちなみに、UCK青少年育成を目的としたNPO法人まで立ち上げている。)

少し話が変わるけども、『Rev3.11』から発刊した電子雑誌『REV MAG vol.1』で、靴底というブロガーに"とある地方での音楽シーンのお話"という記事を寄稿いただいた。この記事では「日本の地方で形作られたヒップホップの姿」が実話/フィクションを織り交ぜながら描かれているが、この記事の話で面白いのは、地方の"先輩"が興味を持っているのはカーオーディオでハマる『スーパーユーロビート』のような音楽であって、CDショップでもクラブでもライブハウスでも、勿論PCで聴かれるような音楽でもないというところだ。車の中こそが"先輩"たちの現場だというところに説得力がある。思い返してみると、私が学生のときにも地元の友達から借り出されて夜中ずっとドライブしているときにはカーステレオからユーロビートが鳴り響いていた。

おそらくこの記事を書かれたときに靴底氏も意識していたと思われるが、この集団が作り上げたヒップホップの形はこれまで紹介してきたUCKの作り出しているものと近い。勿論それは地方で活動している人間だからこそ作り上げることのできるヒップホップの形に違いないけども、彼らの音楽に影響を与えているのは彼らが生活する地域のなか、もっと言ってしまえば彼らが活動する集団やチームのなかに育まれている"カルチャー"だ。

その"カルチャー"は人にとっては、ヒップホップカルチャーであり、日本語ラップカルチャーであり、クラブカルチャーであり、ドラッグカルチャーであり、車文化であり、ゲーム文化であり、アニメ文化だったりする。過去に出会った真新しい(と思えた)音楽を思い返してみれば、それはそれまで自分が知らなかったカルチャーのなかで育まれていたものだったという例が確かにある。カルチャーがローカルな地域のなかで様々に変換され、翻訳/誤訳された果ての表現――それこそを私たちは音楽の持つ"地域性"と呼んでいるのだろう。

Thursday, February 02, 2012

SNEEEZE - DEVICE(発売前レビュー)と "ニュータイプ"がつくるリアルについて



SEEDAから端を発したハスリングラップの"リアル"という概念についてはこのブログで過去にいろいろ書いてきたけども、今回はJPRAP.comのbenzeezyが主宰するレーベル『rev3.11』からリリースされるラッパーSNEEEZEのアルバム『DEVICE』の発売前レビューやネットから発信される若手ラッパーの音源の紹介を交えながら、ハスリングラップから脱皮して日本のヒップホップに新しく芽吹く"リアル"について書こうと思う。

まずは、昨年にミックステープ『Joon In Not My Name』をドロップしたMOMENTの音源から。

MOMENT "外人FLOW"

自らを"外人ラッパー"と名乗るように、韓国から日本に留学してきたコリアンラッパー、MOMENT。↑のYouTubeではリリックが出てくるのでわかると思うが、外人ラッパーといいながらも日本語がとても流暢で、韓国語と英語の3ヶ国語を巧みに操りながらラップをする。この曲でMOMENTは、母国でどんなことを教えられて、どういうポリシーを持ちながら日本でラップをしているのかを丁寧にラップしているが、日本語と英語と韓国語という3つの言語を行き来しながらラップすることで1つの言語でラップするよりMOMENTというラッパーの持つバックボーンの複雑さと、そのバックボーンから生まれるラップに対する想いの強さを効果的にあらわしている。

MOMENT "Nation's Best Kept Secret"


↑はTwitterから火がついてMOMENTの曲のなかで再生数を最も稼いだ曲。コンシャスなラップという意味では右翼ラッパーとして名を馳せるshow-kの曲もTPP問題やマスメディアへの批判、脱原発への反対論など非常に過激なテーマを扱っていてヒップホップ以外の分野でも物議を醸しているけども、"外人ラッパー"であるMOMENTが日本人の政治への関心の薄さに警鐘を鳴らすという、show-kとはスタンスは違えど同じくらい過激な内容の曲。(余談だけど、日本人を批判するこの曲のことをshow-kが評価していたのはちょっと興味深い)

SALU "Taking a Nap"


次の動画はBach Logicが設立したレーベル『ONE YEAR WAR MUSIC』からの契約第一弾アーティストとなったSALUのデビューアルバム『IN MY SHOES』からの1stシングル"Taking a Nap"。SALUはネット上の動画インタビューで「Lil WayneとBob Marleyから影響を受けた」と答えていたけども、実際の曲を聴いてみるとラップスタイルやリリックのスケール感に彼らの影響をたしかに感じさせるところが面白い。

このPVを見ると視覚的にわかるけど(実際のリリックは動画下のコメントに記載されている)、国、世界、地球といった規模のレイヤーでSALUの視点が浮かび上がって、自分達の生活のずっと先にどうしようもなく抱える大きな問題へフォーカスしていく。地球規模にまで視界が広がっていくという意味ではShig02や降神あたりも彷彿とさせるが、昨年の年末にリリースされたミックステープ『Before I Singed』の最後に収録された↓の曲も同じように非常にスピリチュアルで、Shig02や降神と同じく熱狂的なファンを生みだしそうな雰囲気を持つ。

「言葉は世界を彩るマジック/ただ文字・音・振動ではない/
世界が求めているのは愛/でもSEXに溺れて見える訳ない/
ただ無限に続いているまたトンネルくぐっている
ことにも気づかず"無限"の意味をググっている/
トンネルの外はゼロだけど神の名の下に弔いつづける」("Nightmares of the Bottom")

SALU "Nightmares of the Bottom"


自分と音楽業界の状況を"看板に描かれている女の子"になぞらえてラップしたという2ndシングル"THE GIRL ON A BOARD"もアルバムリリースに先駆けて公開されたが、生活の先に潜む深くて大きな問題を描きだすという構造自体は前の2曲と同じで、レーベルがSALUを形容している"ニュータイプ"という言葉のなかにはラッパー個人の生活の話しだけには留まらず、"もっと広い視野をもっている"新しい時代のラッパーという意味合いが含まれていそうだ。

"外人ラッパー"ながら日本の国の問題を考えてスピットするMOMENTや、SALUのギミック……私達個人の生活のずっと先にある、いずれは誰も避けることのできないとても大きな問題までマクロに視点が広がっていくという点は、SEEDA『花と雨』から始まったハスリングラップがラッパー個人の生活に対しミクロにフォーカスして鬱屈めいた個々の問題を描き出していたことと対比すると、確かに新しい切り口(ニュータイプ)のようにも思える。

……とは言っても、コンシャスな切り口、視点がマクロに広がっていくというギミックは、3年前にSEEDAが引退宣言アルバム『SEEDA』で先駆けて既に使っていたわけでそれ自体が新しいというものではない。しかしもし現在、↑に挙げたMOMENTやSALUの楽曲を聴いて"何か新しいもの"を感じたのであれば、それはいまの日本の状況がMOMENTやSALUのうたっている内容に強度を与えているからなのではないかと思う。

SEEDA "DEAR JAPAN"


SEEDA "HELL'S KITCHEN"


↓の曲は2011年3月11日のわずか2日後、まだまだ混乱が冷めないなかでYouTubeにアップされたものだが、震災の起こるまえまで「何もしないで生きるということに勇気を与えたい」というようなことをインタビューで答え、無意味な日常をただ漂うような作品ばかりをリリースしていたS.L.A.C.K.が混沌のなかでこのラップをせざるを得なかったという状況自体が相当にシリアスにうつった人も多かったに違いない。当時この曲を聴いたとき、TVの前でありえないことが立て続けに起こる状況が"リアル"になって、無意味な日常がどこかに遠いところに行ってしまったターニングポイントのように感じられた。

S.L.A.C.K.、TAMU、PUNPEE、仙人掌 "But This is Way"


2011年3月11日を境に意識したくなくても意識しなければならない山ほどの問題が目の前に積まれ、同じように見えるはずの景色が変質した。KLOOZがインタビューで「震災前と震災後でshow-kの見え方が180度変わった」と言っていたことにも象徴的だけど、『SEEDA』がリリースされた2009年当時より"大きな問題"が私達にとってリアルに響くようになったということではないか。

JPRAP.comの管理人benzeezyが主宰する『rev3.11』は、日本のヒップホップで起きている"変質"そのもの扱うレーベルとしてネーミングしたものだという。いや応なく、考え方や意識が変わってしまったアーティストとリスナーが繋がる機会を提供するレーベルだということだろう。神戸在住のラッパー、SNEEEZEはネット配信オンリーのそのレーベルからアルバム『DEVICE』をリリースする。

SNEEEZEのラップの特徴は"精神的にダメージを食らいながらも、そのプレッシャーを跳ね返して前に進もうともがく姿勢"にあるとbenzeezyは言う。

「諦めない事が強さなら/捨てれるかな自分の弱さ/
この世はさ/残酷で無残にも不平等な物でさ
妨げたい/今下げられない/ピンチに3分だけ現れない/
オレはEvery day Every night/戦いの中 昨日の自分を越えたい
<略>
痛くはないでも/もうここには居たくはない
Do or die/やるしかない/ためらっても振られるDice
運命 偶然 必然がごちゃ混ぜ/運も味方につけてRun way
どこまで行けるかさ/なんてじゃなくて息が続くまで走るだけ」("Get Ready")

SNEEEZEがあらわすこの種の葛藤は、彼が1995年に起きた阪神淡路大震災で被災して、その頃から抱えているトラウマから生まれているものだ。もしbenzeezyが言うようにそのトラウマにぶつかって"精神的にダメージを食らいながらも、そのプレッシャーを跳ね返して前に進もうともがく姿勢"をSNEEEZEのラップから感じられるのであれば、それは3.11で意識を変えられた人々にも届くものにもなりうるのではないか。

たとえば、このアルバムに収録されている"Doubt"は東日本大震災以降の国の政治や東京電力にまつわるメディアや情報に対する不信をテーマにつくられたような、『DEVICE』のなかでも最もコンシャスな曲だけども、そんな中にも少しばかりの希望が描かれる。

「ネット,メディアに人は踊らされ/We can't control/でも人は流れ
涙またどこかで枯れても落ちても/Nobody stop that
Hard pressure 波に飲み込まれる/現実逃避ドラマのワンショット
TV, NEWSにBadな話に/さえない政治に無意味な正義
何かを変えれば良くなる/時間はかかるけどまた良くなる
喜怒哀楽上手く使い分け/Pressure Pressuer/上手く潜りに抜ける」("Doubt")


MOMENTの曲は先に挙げたコンシャスなものより大学での生活やモラトリアムや、身の周りの苛立ちや悩みをうたい、『DEVICE』のSNEEEZEの曲は自己の葛藤から生まれる。そういった意味では彼らのラップはハスリングラップでうたわれていた(彼らが自分の身近な物事についてうたっていた)"リアル"にとても近い。

しかし彼らの怒りや葛藤(という単語があらわすものより彼らの曲はもっとクールに聴こえるが)が私達の目の前に立ち塞がり、いずれは解決しなければならない"問題"に向かうとき、それらの問題が"リアルなもの"として浮かび上がってくる。SWAGと言われるUSのヒップホップのモードをファッショナブルに着こなしながら、この新しいレイヤーの"リアル"を提示しているラッパーを"ニュータイプ"と呼ぶのなら、なんとなく説得力はある。

Sunday, January 01, 2012

2011年"ときチェケ"レコード大賞14作品

ハッキリ言って、他のどのメディアやブログを見ても同じようなリストになっているので、あまりリスナーの皆様の参考にならないと思われる2011年"ときチェケ"レコード大賞リスト。でもまぁ、どのメディアも同じ作品を挙げているということは、逆に言えばコレだけ聴いておけば2011年は大丈夫ということだ。…とお茶を濁して、2012年もよろしくお願いします。


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■勝ち組部門
・Jay-Z & Kanye West "Watch the Throne"
・Drake "Take Care"
"Otis"のPVに出てくる改造車をひと目見ただけでも、私たち一般庶民には「俺らめちゃめちゃ金と持っているぜ」感を存分味わえるが、本作『Watch The Throne』をつくるためにホテルの1フロアを貸しきり、各プロデューサ陣に1部屋ずつ与え、ジェイ御大とカニエ先生が自分たちの部屋に1人ずつ呼び出してビートのダメ出しするという部活合宿のセレブ版制作スタイルを聞き、2012年勝ち組大賞を与えることを決定。毎度、作風を変えながらも決して軸がブレないお2人には頭が下がります。
勝ち組部門もう1つのノミネート作品は、Simi Labの"Uncommon"ばりに「非リアって何?非モテって何?」と迫ってくるようなアルバム『Take Care』。愛に飢えてしょうがないモテ男の苦悩(そんなもん知るか!)を色気たっぷりのあま~いコーティングで固めた『Take Care』には勝ち組部門リア充大賞を与える。


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■ハイプ部門
・Tyler, the Creator "Goblin"
・ASAP Rocky "LiveLoveA$ap" :download
・Main Attrakionz "808s & Darkgrapes II" :download
サマソニ出演が決まり日本でもロックファンを中心に広いプロップスを得たODD FUTUREの中核タイラーさんの『Goblin』には日本ベストハイプ賞、アンダーグラウンド感(≒アマチュア感)ばりばりの"Peso"が耳の早いリスナーから支持を集め始めたかと思った次の瞬間には2億3000万円のディールを勝ち得ていたA$APさんに世界ベストハイプラッパー賞を進呈。「Aesop Rockと名前が似ていて紛らわしいね」とか言っていた頃が早くも懐かしい。
 ベストハイププロデューサ賞はMain Attrakionz 『808s & Dark Grapes Ⅱ』。『Live Love A$AP』はあくまでラッパーがメインで素材がそれを支えたクラウドラップ作品だけども、『808s & Dark Grapes Ⅱ』はメイン不在のなか、Squadda Bの人脈を手繰り寄せてありとあらゆるトラックメイカーをぶち込んだ闇鍋。それでも、下手糞なラップも含めて見事にハーモナイズしているあたり、さすが時代の寵児といったところか。


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■クオリティ&コンセプト部門
・Lil B "I'm Gay"
・Kendrick Lamar "Section 80"
・G-Side "The ONE​.​.​.​COHESIVE"
『I'm Gay』、『Bitch Mob』、『BasedGod Veli』、『The Silent President』、『Illusions Of Grandeur』、『I Forgive You』、『Evil Red Flame』、『Black Flame』、『Gold House』……2011年もいったい何枚のミックステープをリリースしたのか正直その全てを追え切れている自信もないLil Bさんが2010年に引き続きノミネート。しかも、それらすべてのコンセプトや音楽性が微妙に変えられ、違った印象を残すところも流石。それぞれがミックステープの海賊盤っぽさというか、アマチュア感("Based"って"アマチュアリズム"ってことなんじゃない?)を残す中、商業リリースなだけに一番まともでパッケージ感とコンセプト力のある『I'm Gay』に賞を送りたい。
あとは、Lil Bとは真逆に隙という隙がなく、純粋に作品的なレベルが高いKendrick Lamar『Section 80』とG-Side『The One』を聴いておけば良いんじゃないでしょうか。この2名には新人賞を与えます。"新人"じゃない?いいんだよそんなの。


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■ギャングスタ部門
・AraabMuzik "Electronic Dream"
・Waka Flocka Flame, Trap-A-Holics "DuFlocka Rant (10 Toes Down)" :download
・Meek Mill, DJ Drama "Dreamchasers" :download
実はほとんど毎年「果たしてヒップホップなのか?」と疑問を持たれる作品をリストに入れているのだけども、その"麒麟枠"にAraabMuzikをセレクトイン。他人のヒット曲へアマチュア感丸出しなリミックスを施しただけで、あたかも自分の手柄扱いする姿勢がベストギャングスタということで。
あとは、Lex Lugerのビートを用いずとも充分"金太郎飴的なパンクミュージック"を量産するWakaさんと、RickRossからディールを得てヒット作を連発するくらい運気がまわってきた感のあるMeekさんが入賞。Wakaさんはメジャーからディールを得ようとも同じようなパンクミュージックをギャングスタイルで作った前例があるけど、果たしてMeekさんはメジャーからスタンスを崩さず良作をクリエイトできるか?


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■負け組部門
・Danny Brown "XXX" :download
・Mr. Muthafuckin' eXquire "Lost In Translation" :download
・SPVCXGHXZTPVRRP "Blvcklvnd Rvdix 66.6 (1991)" :download
ドラッグとセックスに塗れながら何の充足感もなく30歳になってしまった絶望と怨念だけがパッケージングされた『XXX』が負け組部門の堂々たる大賞を獲得。成功への道をひた走るMac Millerに対して「(もしMac Millerに会ったら)オマエのことが嫌いすぎて申し訳ないと言いたい」とインタビューで答えるって、どんだけリア充が嫌いなんだ。あとコレをベストラップアルバムに選ぶ批評家各位も相当病んでいると思う。
SPACEGHOSTPURRPのビデオ(http://www.youtube.com/watch?v=xcgHmVgzPzw)とMr.Muthafuckin' eXquireのミックステープジャケは不気味すぎて、「往年のアンダーグラウンドヒップホップからの影響云々」とか多くを語らずも負け組と認定。

Monday, November 14, 2011

Simi Lab - Page 1 : ANATOMY OF INSANE



自ら「ヒューストンのヒップホップに影響を受けた」と公言するA$AP Rockyは、様々なラッパーと比較されるようにNYが出自ながらもイーストコーストのマナーに縛られず、西海岸・中部・南部のあらゆるスタイルを吸収して体現する。なかなか決め手となる作品が無かった"クラウドラップ"という括りで見ても、Clams Casinoを中心に組まれたミックステープ『LiveLoveA$AP』はその決定打と言い切ってしまえるほどのクオリティを獲得し、A$AP Rockyは爆発的なプロップスを勝ち得たうえで名実共に2011年の顔となった。

しかし、「マイノリティがつくる音楽の独自性」というテーマでいえば、マッチョイズムが柱になっているヒップホップ・ジャンルの中であえて『I'm Gay』と銘打った作品をリリースしたり、有料リリースした作品をファンのために無料DL公開したり、ヒップホップマナーに従わないビートにラップしてみせたりしながらLil Bが挑戦しつづけているけども、こと楽曲の"独自性"という面ではLil Bほど積極的にビートやラップのあり方を模索しているアーティストはいないのかもしれない。件のA$AP Rockyにしても、Odd Futureにしても、その存在以上に楽曲のスタイル(ラップスタイルやビート)が例に無いほど斬新かと問われれば、あらゆるラッパーからの影響が垣間見れるだけにどうしても疑問符が付く。(Tyler, the Creatorのラップがどんなものに影響を受けているかについては"OMAG! OFWGKTA!!!"に詳しい)

こういった海外の旬なラッパーの持つ楽曲そのものを超越した"面白さ"はSimi Labの魅力にも通じるところがある。以下は各メディアのSimi Labインタビュー。

<ele-kingインタビュー>
http://www.dommune.com/ele-king/features/interview/001545/
<Queticインタビュー>
http://www.qetic.jp/?p=74136
インタビューでも度々話題にあがる"Walk Man"は↓の動画を参照のこと。




ひとりひとりが自分達のクルーの実態を把握してないというところ、一見外人のラッパー集団に見えるが実は全くネイティブな日本人だというところ、クルーの関係性や身体的な特徴もふくめてSimi Labは非常にファジーな集団だ。更に↓の動画を観てもらえればわかるとおり、SWAG系のラッパー達が"自分のラップ(スキル)は特別だ"というところにプライドを置いていることに対して、"自分たちの存在はUncommonだ"というスキル以上にファジーな部分に軸があるところが興味深い。




Lil BやA$AP達が持つ"とらえどころのない魅力"は、彼らがマイノリティであることに自覚的で、それをあらゆる手段で表現しようとしているからこそ生まれてくるように思える。楽曲だけでなく、ブログやTumblrやYouTubeやTwitterに垂れ流され断片的に山積みされていく情報が、アーティストの"世間からズレた感覚"や、なにか"普通じゃない感覚"を生み出すとき、それはリスナーにとって非常に刺激的なスパイスをもたらす。Wu-Tang Clanがはじめて世に出てきた時代と比べれば、アーティストにとってはより簡易に、リスナーにとってはより視覚的に。

Simi Labの楽曲は聴く人が聴けば、単なる90年代後半~00年代前半に数多くリリースされていたローファイなヒップホップの焼き直しに聴こえるだろう。しかも、そこでラップされている内容には彼ら個人個人の"イルで不敵な視点"以上のものは無い。しかし、彼らの作品は決してそれ単体で聴くものではなく、YouTubeに流れる映像、ネット上の情報やイメージにまず触れてみることこそが重要なのだと思う。それらにあらかじめ触れていてこそ、『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』での彼らのファジーな存在感が濃くなるのだから。

Sunday, September 25, 2011

ham-R - Stay Hungry Stay Foolish & Seven Demos & Milestones & Future Vintage



■ ham-R "Stay Hungry Stay Foolish" :download
■ ham-R "Seven Demos" :download
■ ham-R "Milestones" :download
■ ham-R × Y.G.S.P "Future Vintage" :download

THA BLUE HERBの"STILLING,STILL DREAMING"、MSCの"MATADOR"、SEEDAの"花と雨"、あるいはキングギドラの"空からの力"でもなんでもいい。ほとんど無名だったなか多くのリスナーから支持されて、歴史に名前を残した作品を見ていると、その特徴は「自分の表現に確固たる自信を持っている」ことと、「それまでには無い新しいアプローチで表現している」こと、更に「自分を取り巻く環境や時代の流れを的確に捉えている」というところにあることに気づく。つまり、リスナーにとって刺激的で新鮮に聴ける作品とは日本語ラップというジャンルの中心からではなく、それまでのシーンの流れから外れたカッティングエッジから産まれ、そういったフレッシュな表現を次々と取り込んでシーンは成熟していくということだ。

もちろん、ひとときカッティングエッジにあった表現もシーンに取り込まれていくことで、どんどん古びたありきたりの表現になっていく。だけども、いつの時代であっても「自分の表現に確固たる自信を持」ち、「それまでには無い新しいアプローチで表現」をし、「自分を取り巻く環境や時代の流れを的確に捉え」ることのできたアーティストがシーンに恵みを与え、バリエーションを豊かにすることは疑いようもない。

SEEDA、ANARCHY、SIMON、NORIKIYO、般若、TWIGY、KREVA、RHYMESTER、鬼、S.L.A.C.K.、RAU DEF、志人、ICE DYNASTY、ROMANCREW、サイプレス上野とロベルト吉野……こうやって今年アルバムやEPを発表したアーティストの名前を並べると、まだ2ヶ月残しながら2011年は日本語ラップにとって本当に豊作の年だった。それぞれのラッパーの持つカラーがアルバムにきちんと反映されていて、音楽的なクオリティの部分のみでいえば期待はずれとなったものはあまり無かったのではないかと思う。

しかしシーンにとって刺激となり、これまでの表現を変えるほどの力を持った作品は「無かった」と、バーチャルアイドルラッパーRANLのミックステープ(Service Time)がネットで一部集中的に話題を呼んでいたことを踏まえて裏から見れば、そう言い切ってしまってもいいのではないか。"リアル"を追求してきた日本語ラップへの皮肉かのようにまったく実体がなく、確かなラップスキルと日本語ラップの知識を楯に半ば自虐的に日本語ラップシーンそのものをアニメ声で揶揄していくこのラッパーが持つ面白さは、日本語ラップのカッティングエッジから産まれていることをこの際強調しておきたい。何にせよ、まるで日本語ラップの文脈を逆流していくようなRANLの"Service Time"が新鮮に聴こえてしまった身からすると、これから先の日本語ラップというジャンルそのもの自体に一抹の不安を感じてしまう。この音楽にはまだカッティングエッジに立てるアーティストが出てくるのだろうか?

1年ほど前になるけども、立て続けにミックステープをリリースしていたアーティストがいた。いま彼がリリースした作品群"Stay Hungry Stay Foolish"、"Seven Demos"、"Milestones"、"Future Vintage"から感じ取れるのは、まさしく「自分の表現に確固たる自信を持」ち、「それまでには無い新しいアプローチで表現」し、「自分を取り巻く環境や時代の流れを的確に捉え」る姿勢だった。

たとえば、1stミックステープ(Stay Hungry Stay Foolish)に収録されている"Japanese Average Line"や"R-25"といった曲で描かれる現代の若者の視線には社会に出ている人間なら誰でも理解できるウィットに富んだ面白さがあるが、それだけでなく、その目線の先が日本の社会システムあるいは音楽業界の崩壊にまでうつっていったときに、とてもコンシャスな説得力を帯びていくことに気づく。音楽業界や、日本という国だけでなく、アメリカを代表するエネルギー社会全体が沈んでいこうとしている"いまの状況"を捉え、そのなかでサバイブしていく使命を背負わされた若者の視線は、そんな終わっている状況を作り上げた上の世代を痛烈に批判する姿勢にも繋がっていく。ZEEBRAとRAU DEFのビーフでも ham-Rがその裏からビーフを演出していたフシがあったけども「自分の表現に確固たる自信を持」って、古いシステムや考え方をぶち壊して新しい世界をつくっていこうとする姿勢は、そんな "状況分析"のもとでつくられているように見えてくるのだ。いまの"終わっている状況"を作り出した古いシステムとその遺産を押し付けられる若い世代が、新しいシステムの波に乗って、そいつらをぶっ壊していくことを宣言する姿勢には充分すぎるほどの説得力がある。

"まずはぶっ壊す腐った地球ってとこの日本って国のしょうもない音楽。ここ東京から最新ってやつを教えてやらぁ"(Knock Knock)

"いつまで経ったらお前の言うブリンブリンを若いやつらがゲットできるの?はたから見たらやたら陰気くさいしみっともない感じ。ほらオマエだよオマエ。うすうす感じ取っているんだろ?Hi!追い出される前に消えな。じゃなきゃそろそろ血祭りにあげんぞオーライ?"(Hi!)

古いシステムや考え方を全て破壊してやるという圧倒的な自信、的確な状況分析と視野の広さ、そして何よりもそれらを裏打ちする優れた音楽的センス、それらは全てカッティングエッジに立つことを可能にするエッセンスだ。ham-Rが一連のミックステープで示した上の世代や古いシステムに対してみせる攻撃的な一面は、キングギドラ、THA BLUE HERB、MSCの処女作ではまた別の形で露出していた。いまインターネットから、JPRAP.COMを媒体としてこれまでとは異なる才能を持ったアーティストが次々と出てきているけども、もし彼らがham-Rと同じような姿勢と覚悟を持ってカッティングエッジに立つことが出来るのであれば、きっと日本のヒップホップにとって大きな力の源になるだろう。

"When I was young, there was an amazing publication called The Whole Earth Catalog, which was one of the bibles of my generation. It was created by a fellow named Stewart Brand not far from here in Menlo Park, and he brought it to life with his poetic touch. This was in the late 1960's, before personal computers and desktop publishing, so it was all made with typewriters, scissors, and polaroid cameras. It was sort of like Google in paperback form, 35 years before Google came along: it was idealistic, and overflowing with neat tools and great notions.

Stewart and his team put out several issues of The Whole Earth Catalog, and then when it had run its course, they put out a final issue. It was the mid-1970s, and I was your age. On the back cover of their final issue was a photograph of an early morning country road, the kind you might find yourself hitchhiking on if you were so adventurous. Beneath it were the words: "Stay Hungry. Stay Foolish." It was their farewell message as they signed off. Stay Hungry. Stay Foolish. And I have always wished that for myself. And now, as you graduate to begin anew, I wish that for you.

Stay Hungry. Stay Foolish."(Stay Hungry Stay Foolish)