Monday, June 13, 2011

00年代代表作から見るヒップホップの変遷、特長とか

 今回の記事はライターの小林雅明さんを招いて、「00年代ヒップホップの代表作」をネタに対談していく内容となっています。

 この企画をつくった理由は2つあって、1つはワタクシ微熱王子がネット上にヒップホップ関連の文章を書くようになって今年の5月で10周年を迎えたので「その節目として何かやりたい!」という自分以外の人にはどうでもいい理由なのですが、もう1つの理由は90年代黄金期のヒップホップに比べて00年代ヒップホップについて分析・評価を行った記事が少ないのではないか?と思い至ったからです。

 90年代黄金期のヒップホップを語り継いでその価値観を残していく必要があるというのであれば、同じように00年代のヒップホップに起こっていた現象や変化を見極め、きちんと整理して語り継ぐ必要があるのではないでしょうか。そこで今回、まずは”体系づくりの1ステップ”として企画してみました。好評であれば、更に次にも繋げていきたいと考えています。

例によって少々長い記事となっていますが、お時間があれば読んでいただけると幸いです。


■50CENT - 『GET RICH OR DIE TRYIN'』 (2003)


微熱:じゃあ 50 CENTの話から順番にやっていきましょうか。50 CENTの代表作といったら1STアルバムである『GET RICH OR DIE TRYIN'』です。これは彼がリリースした作品のなかでも50 CENTの魅力として認知されている”暴力的な描写”に一番フォーカスがあたっているものですね。50 CENTはこの後『MASSACRE』、『CURTIS』、『BEFORE I SELF DESTRUCT』とアルバムをリリースしていく訳ですが、持ち味である攻撃的な側面より段々彼個人の内面に焦点をあてるような作風になっていって、セールスを落としていきます。

小林:次回作のタイトルが『2011 GET RICH OR DIE TRYIN'』になるという噂があるみたいだし、セールスを戻すためなのか、ギャングスタな物がすっかりなりをひそめてしまった今のシーンでは、新鮮なものとなる可能性が高いと思っているのか、攻撃的な方向にもどろうとしている節はあるようですけどね。

微熱:50 CENTが出てくる前までに同じように他のラッパーを攻撃してプロップスを得ようとするスタンスのラッパーっていたんでしょうか。暴力的、攻撃的という意味ではN.W.Aみたいなクルーもありましたけど。

小林:50 CENTが影響を受けているのは2 PACとかBIGGIE(NOTORUOUS B.I.G.)でしょ。

微熱:あぁ。実際に”銃撃されて生き残った”というような物語をリスナーに植え付けていくというような部分ですね。

小林:50 CENTの半自伝映画(GET RICH OR DIE TRYIN')には彼の人生のうちの半分しか描かれていない。つまり、ギャングスタだった頃の50 CENTのビーフしか描かれていなくて、ラッパーとしての50 CENTは「さぁこれから」というところで終わってしまうんですよ。そして、50 CENTがこのアルバム『GET RICH OR DIE TRYIN'』でやろうとしたことは、彼がギャングスタだった頃にやっていたビーフの図式をそのままヒップホップゲームに持ち込むということなんだよね。

微熱:JA RULEを相手に思いっ切り喧嘩を売るところとか。

小林:50 CENTは”JA RULEがストリートと繋がっているリアルなラッパー”だと演出して、JA RULE側がそういう側面を出しやすい環境を作ってあげて、バトルを盛り上げるようなことを企む策略家なんです。それと比べると2 PACは策略とはほど遠い、ほとんど素の状態でビーフに巻き込まれるラッパーだね。逆に策略にハメられてお金を取られてしまうような。

微熱:2 PACがヒップホップの世界でもストリートの一住人だったのに対して、50 CENTはヒップホップの世界とストリートを区別してストリートにあったルールをヒップホップに持ち込んでゲームにしてしまったということですね。

小林:そう。”ストリートの経済”みたいなものもヒップホップに当てはめようとしたんだよ。彼のミックステープがストリートでウケたのはそういうルールのうえに成り立っていたからなんじゃないかと思うんだけどね。

微熱:ミックステープをストリートにばらまくという行為をもドラッグディールの延長線みたいな形で成り立たせていたと。

小林:同じノリでやっていたんだろうね。50 CENTの縄張りにミックステープをばらまくことで「みんな聴いている」という印象をリスナーに与えていたんだろうし。

微熱:ストリートのルールをヒップホップに持ち込んだというところが面白いですね。実際に50 CENTは銃で撃たれていますけど、そのイメージをそのままヒップホップに使ってしまうという。

小林:しかも過去に有名なラッパーが銃撃されているというイメージを上手く使って、リスナーが頭のなかで50 CENTと2 PACをリンクしやすくしている。50 CENTをまったく知らない人でも”銃撃された”という事実を聞いただけで、彼のイメージがつきやすくなって安心感を与えるんだよ。

微熱:すごく頭のいいラッパーですよね。インタビューで「酒やマリファナはやらない」という発言がありましたけど、頭を鈍らせるようなことはやらず、ヒップホップ以外のビジネスも手広くやっている。

小林:あとは稼いだお金をフッド(地元)に還元したりもしているし。

微熱:ただ、この『GET RICH OR DIE TRYIN'』以降は段々角が取れて自己の内面に向かっていきますよね。

小林:2 PACやBIGGIEは”銃撃されて死んだ”ラッパーだけど、50 CENTは”銃撃されても生き残っている”というところが強みであって、ラッパーとしてのセールスポイントなんだけど、やっぱりそのネタだけではやっていけないから。

微熱:他のラッパーを攻撃することでネタをつくって曲つくりするのも50 CENTの特徴ですけど……。

小林:ただそれも50 CENTが相手にしたいラッパーが相手にしてくれなくなるとネタにならなくなってくるんですよ。

微熱:「50 CENTの”HOW TO ROB”は50 CENTがファンの視点でラッパーに喧嘩を売っている」ということを小林さんが昔雑誌に書かれていましたね。”HOW TO ROB”の頃はファンの視点でラッパーに噛みつけていたけど、スターになってしまうとそれだけ喧嘩を売れる相手もどんどん限定されていってしまう。そういった意味でも、『GET RICH OR DIE TRYIN'』には攻撃的で刺激的な50 CENT像が一番良くあらわれているんですね。


■CAM'RON - 『PURPLE HAZE』 (2004)


微熱:資料の上だと、DIPSET(CAM'RONのクルー)がミックステープ市場をはじめて切り開いたということになっていますけど……。

小林:少なくとも50 CENTよりは先にミックステープを作り出したということになっていますね。
 あと、元々ビートジャックは「同じビートの上でラップしても俺の方が上手い」ということをアピールするためにやっていたものだったんだけど、DIPSETあたりをキッカケに最近はそういう側面も薄れてきた。

微熱:いまやビートジャックという手段は、”コストを安く作るため”とか、”流行っているから”という理由で使われるようになっています。

小林:曲単位ではなくて、ミックステープのコンセプトそのものとして、そういう流行りの物をビートジャックをするようになってきたのがDIPSETや、G-UNIT(50 CENTのクルー)あたりだった気がする。80年代の終わりから90年代初めにかけては、ビーフの相手の曲を文字通りジャックして、同じビートなら自分のほうが上手くラップができるということをアピールするためのものだったんだよね。

微熱:だけど、DIPSETや50 CENTがミックステープでビートジャックをやって根付かせていくことで、その辺の線引きが段々曖昧になってビートジャックの概念が変わっていった。

小林:だからそういう意味でもヒップホップではバトルというものが成立しづらくなってきているよね。いまやビートジャックなんてディスでもなんでもないから。

微熱:逆にいまはビートジャックしてもらった方が宣伝になりますからね。
 あと、DIPSETはヒップホップグループとして売れていたという以上に、ひとつの現象となるくらい流行っていたみたいですけど……。

小林:当時、ヒューストンとかサウスの連中がDIPSETを聴いていたかというとそういうわけでもないんじゃないかな。DIPSETはとても都会的なアーティストだし、くどいほどリリカルな面を打ち出すクルーだから。地方のリスナーからしたらもっとわかりやすいほうがいいでしょ。いまでこそあらゆる地域で色んなスタイルが受け入れられているけど。

微熱:CAM'RONは”リリカル”っていうより”ナンセンス”というイメージのほうが強いのでは?

小林:いや、基本はナンセンスだよ。ナンセンス過ぎてシュールでリリカルに聴こえるっていう。韻を踏みすぎて全く意味が通じないから。90年代だとGHOSTFACE KILLERが思いついたままに韻を踏みまくっていたけど、CAM'RONは彼に近いスタイルではあるよね。

微熱:確かにGHOSTFACE KILLERはリリックの面白さで評価されていますけど、CAM'RONってちょっと違いますよね。言葉選びのセンスの差なのかな。

小林:そうでしょ。CAM'RONのラップを聴いていると、ありえない言葉使いのセンスでピンポイント的な衝撃を受けている間に曲が終わってしまう。GHOSTFACE KILLERはフリースタイル的な部分を多分に残しながら曲全体に通じるうねりみたいなものを生み出しているけど、CAM'RONは曲の中でも明らかにウケを狙っているポイントがあるんだよね。

微熱:そういう意味だと、そのシュールなラップスタイルを確立したのがこの『PURPLE HAZE』です。98年の『CONFESSIONS OF FIRE』、00年の『S.D.E.』はまだどちらかといえばイーストコーストマナーに忠実なトラックのうえにタイトなラップをのせていたんですけど。

小林:その頃は普通に真面目なんだよね。もともとはBIG LやMASEと一緒にCHILDREN OF THE CORNをやっている人だから、いくらなんでも一定以上のレベルがないとやっていけないよ。

微熱:それがROC-A-FELLAからリリースされた『COME HOME WITH ME』あたりからおかしくなってくる……。
1STアルバムの『CONFESSIONS OF FIRE』をリリースするときにBIGGIEが手助けしたという話もあるみたいですけど、仲間内からの評価はもともと高かったみたいですね。ただ、リスナーとしてCAM'RONのラップを聴いたときにそんなに高い評価を下せるかというと別の話なわけで。

小林:別にBIG Lを神格化するわけじゃないけど、彼と一緒にラップをしていてこんなスタイルに辿り着いたというところがスゴい。イーストコーストにも上手いラッパーはたくさんいるから、そのなかでスタイルを模索してここに辿り着いたんだろうね。50 CENTがCAM'RONをイジる理由がよくわかります。

微熱:あと、『PURPLE HAZE』はコークラップ(ドラッグディールをネタにしたラップ)として有名ですよね。この辺、この後取り上げるCLIPSEの『LORD WILLIN'』から影響受けていたりするんですかね?

小林:いやJUELZ SANTANAの影響でしょ。JUELZ SANTANAがやっていた”コーク馬鹿ラップ”のアイデアを使って、CAM'RONの持つナンセンスなラップスタイルと噛み合わせることで面白く聴かせようとしたんだと思いますよ。

微熱:『COME HOME WITH ME』の頃はコークラップ色は無いですよね。

小林:その頃は寧ろ女の子ネタが大半を占めている。DIPSETというか、CAM'RONが50 CENTなみの勢いでドラッグディールをやっていたかどうか怪しい……。だからG-UNITに絡まれたりするんだよね。

微熱:でも50 CENTもあまりドラッグディーリングのイメージないですよね?

小林:50 CENTは説明しないから。ドラッグディールをやっていることが前提だから一々言う必要がないんだよ。

微熱:なるほど。あと、DIPSETはキッズ人気が凄いイメージがありますよね。ミックステープのバックナンバーを買い集めるようなマニア的な人気が高いような。そういったところを見るとNO LIMIT(MASTER P主催のレーベル)とも近いかなと思うんですけど。

小林:そうですね。実際にNO LIMIT勢と一緒に曲作ったりもしていますからね。ただ、DIPSETの場合はNO LIMITほど”帝国”的なイメージではないよね。クルーのメンバーもNO LIMITはよくわからないメンバーをよくわかるようにして売り出していくけど、DIPSETはもともとよくわからないメンバー構成のうえに「あいつはクルーじゃない」みたいなことを平気で言うから。全然わからないやつを「クルーじゃない」って言われても全く意味わからない。

微熱:売り出し方という面では、ファッションセンスも独特ですよね。『PURPLE HAZE』のジャケ見てもわかりますけど、ピンクとか紫の目立つ服を着るという。

小林:これっていうかモーヴはゲイの色だしね。だけど、このワザとらしい色使いがいまのヒップホップファッションにも影響を与えてもいる。やっぱりウケ狙いが凄い人なんだよね。ツッコまれるところが異様に多い。例えば、つい最近VADOと演ってる”Hey Mumma“でも「And you so fine, it's so sad Still riding coach, need aCoach bag Let me coach you, no Coach tags」 って、CAM'RONとしては「俺とつきあえばコーチのバッグなんか持たせなくてもすむぜ」と言っているけど、ギャルたちは「どうせあたしは安物のコーチのバッグしか持ってませんよ~」とツッコむわけ。

微熱:根っからのイジられキャラという。

小林:そういう人もあんまりいないから人気があるのかもね。

微熱:ちょっとリリックの話に戻すと、CAM'RONのナンセンスなリリックもファンに言わせると「MF DOOMと何が違うんだ?」ということみたいですけど。

小林:そうそう。それはGHOSTFACE KILLER、MF DOOMと繋がっていく系譜にCAM'RONがいる。彼らの作品を聴いている人は全く同じ路線だということに気づくんだよ。

微熱:GHOSTFACE KILLER、MF DOOM、CAM'RONってなんか三段オチみたいな並びだな……。

小林:ただ、MF DOOMの場合は言うほどナンセンスでもないんだけどね。アブストラクトと言われているわけで、小難しい言葉の選び方はCAM'RONとは真逆だし、それこそ何度も聴いていくと意味がなさそうに聴こえるラインも実は裏の意味があるように解釈できるんだよね。CAM'RONには、ダブル・ミーニングはあっても解釈の余地もクソもない。

微熱:CAM'RONがGHOSTFACE KILLERやMF DOOMを参考にした可能性っていうのはあるんですか?

小林:ないでしょ。CAM'RONのライムはMF DOOMみたいに高尚に響くことはないし、聴けばわかると思うけど、明かにワルノリで意図的なスタイルとはいえ幼児っぽい韻の踏み方だしね。ただ、CAM'RONのファンはMF DOOMを聴かないだろうけど、MF DOOMのファンでCAM'RONをチェックしてる人は多いと思う。稚拙でもフリースタイル的な魅力が絶対的にあるから。まぁ、どっちもマニアックなファンがついてるという意味では同じ。

微熱:計算なのか天然なのかよくわからない人ですよね。ミックステープを定着させたり、新しいラップスタイルを編み出したり、ファッションの源流をつくったり、功績だけで見るとすごいんですけど。

小林:ありえない韻の踏み方やありえないファッションセンスをしているのに、カッコつけているところとか。マニアにはたまらない人だろうね。

微熱:ビート面ではどうです?

小林:DIPLOMATS(DIPSET)の『DIPLOMATIC IMMUNITY』なんて、KANYE WESTがいないのに全曲KANYE WESTみたいなビートなのがスゴいよね。その辺りからそうだったけど、ポップ・ヒットしたロックのネタの使い方とか、最近の"Salute"とか臆面もなくヘンなビートを奇天烈なライムにぶつけている。

微熱:ビートはKANYEみたいだし、ラップは上手いのか下手なのかもよくわからないし……。当時評価が低くても仕方がない……。

小林:まったく煮え切らないね。ただ、『DIPLOMATIC IMMUNITY』はミックステープの曲をはじめてオフィシャルアルバムとしてリリースした作品だからね。そういうアプローチはヒップホップ史上初だったと思うよ。そういえば、DIPLOMATSのメンバは全員ファッションが変だよね。

微熱:JUELZ SANTANAのバンダナとか……。でもKANYEみたいなビートも含めて、すごくわかりやすいグループですよ。やっぱりそこが大事なのかなぁ。CAM'RONの『CONFESSIONS OF FIRE』を聴いても全然ピンとこないですけど、『PURPLE HAZE』には引っかかりまくりますから。


■CLIPSE - 『LORD WILLIN'』 (2002)


微熱:今回取り上げる6アーティストのほとんどに共通するのがドラッグディーリングですけど、そういうネタってストリートのプロップスと直結するもんなんですかね?

小林:ドラッグディールにまつわるスラングがウケている部分はあるかもね。たとえば、G-UNITのLloyd Banksは正にそういう部分を打ち出しているわけで。CLIPSEもそういうドラッグディールに携わる人同士がジャーゴンを楽しむ感じなんでしょうね。

微熱:MALICEとPUSHA TからなるCLIPSEとしての活動は90年代中盤からスタートしていて、キャリアとしては結構長い。元々、NEPTUNESと同郷で仲間だったということもあって、97年にNEPTUNESプロデュースでシングル(”THE FUNERAL”)を切っているんですけどそれが全く売れず、2002年の”GRINDIN'”までヒットに恵まれなかった。ただ、MALICEとPUSHA TにAB-RIVAを加えたRE-UP GANGとしての活動はストリートでも評判が高かったみたいです。ラップとしてはあまり華がなくて、どちらかといえばNEPTUNESのビートのほうに注目がいってしまいがちなグループだと思うんですけど。

小林:KANYE WESTが”RUNAWAY”でPUSHA Tを引き入れたということに象徴的だけど、ラップを評価している人も多いと思うよ。

微熱:2002年に『LORD WILLIN'』が出て、2006年に『HELL HATH NO FURY』がリリースされるまでの間の活動はRE-UP GANGのミックステープ(『WE GOT IT 4 CHEAP』)がメインだったわけですよね。

小林:RE-UP GANGの『WE GOT IT 4 CHEAP』はリアルタイムでシリーズ全部聴いていたけど、当時ネット上でもすごく盛り上がっていた記憶がある。

微熱:ミックステープだとビートも借り物だから、ビートよりもラップにフォーカスがあたりますからね。何がウケていたんでしょう?

小林:この人たちはコークラップという1テーマだけでアルバムやミックステープを作っていたというところが新しいんだよね。他のラッパーだと1曲だけドラッグディールを扱うということがあるけど、CLIPSEは全曲コークについてラップしていて、表現も洗練されている。

微熱:正規アルバムがリリースされるまで約4年もの間が空いてしまっているなかで、ミックステープを出し続けていたのは、単なる活動の穴埋めだけではなくてミックステープの実績を作っていって、メジャーにその実績をアピールするための狙いもあったと思うんですよね。

小林:そうだね。”GRINDIN'”のヒットだってヒップホップリスナーがメインだったから、それだけで次作につなげていくのは大変だったと思う。

微熱:『HELL HATH NO FURY』までは明確にコークをテーマにしていますけど、その後ってどうなんです?

小林:3枚目の『TIL THE CASKET DROPS』はコークラップから離れて逡巡している感じが滲み出ちゃっているね。少なくともMALICEはもうコークラップはやりたくなくて、最近本を出したりしている。まだPUSHA Tは(コークラップを)やっているけど、こないだKANYEと曲を作ったときにKANYEに「一番バカなリリックを書け」って指示されて書いたらしいし……。

微熱:インタビューでも「コークラップとカテゴライズされたくない」とか言っていますからね。

小林:そんなこと言いながら”プッシャー”って名前につけられてもね……。アメリカにそんな名前の人いないよ。

微熱:しかも、アルバムでは頭からケツまでドラッグディールの話をしているという。

小林:意味わかんないよね。

微熱:彼らのミックステープを聴くと良く判りますけど、ラップがすごく上手いんですよね。正規アルバムだとNEPTUNESのビートの個性が強すぎて印象が薄れてしまいがちなんですけど。

小林:NEPTUNESがあまり参加しなかった『TIL THE CASKET DROPS』よりミックステープの方がクオリティが高いという意見は根強くありますね。ミックステープを聴く人は”ラップを聴く”ことがメインだったりするから、ミックステープの評判が高いというのは彼らのスキルの高さを証明している。

微熱:これからYOUNG JEEZYやT.I.の話に移っていきますけど、YOUNG JEEZYやT.I.がつくる”トラップ”もコークラップと同じようにドラッグディールに基づいたラップのフォーマットです。YOUNG JEEZY達のつくるトラップとCLIPSEの表現するコークラップの違いって何なんでしょう?

小林:サウスの連中がやっているトラップは、CLIPSEやCAM'RONみたいに直接的にドラッグを主眼に置いてラップするようなものじゃなくて、もっと緩く日常的なテーマのひとつとして扱うといった感じなんだよね。

微熱:CLIPSEはより直接的にコークそのものについてラップしているということですか。

小林:そう。YOUNG JEEZYはドラッグディーリングを精神的、社会的なテーマにまでしているけど、CLIPSEはコークにまつわる言葉遊びみたいに扱う感じ。

微熱:”日常生活の中のドラッグディール”をテーマとするのかトラップですかね。トラップを日本語ラップに置き換えると初期のSEEDAに近い感じ。

小林:そうだね。YOUNG JEEZYやT.I.は生活している環境のなかにドラッグディールがある。で、CLIPSEの方はドラッグディールそのものについてラップをしているんだけど、自分が犯罪をしている姿を見せつけて「それでよし」とかいうのでは全くなくて、そこから自分の身を一歩引いたところから捉えたり、いちいち凝っていて、要するに、リスナーがいちいちうけてくれるようなライムで表現することに拘りまくっているわけですよ。例えば、その”GRINDIN'”では「I'm the neighborhood pusher/Call me subwoofer/'Cause I pump "base" like that, Jack/On or off the track」と、プッシャーであるPUSHA Tが「自分をサブウーファーと呼べ」って言ってるんだけど、なぜかと言えば、低音をガンガン出しているから。で、”低音をガンガン出している”ってとこが、ダブル・ミーニングで、コカインを売りまくっている、という意味でもある。そんな感じで、とにかくこの人はそんなパンチラインしか考えていないと言ってもいい。

微熱:なるほど。CLIPSEはがっつりコークのことをラップしているけど、YOUNG JEEZYやT.I.は日常生活のアイテムの1つとしてコークを扱っているだけってことですよね。

小林:そうそう。言ってしまえば、ドラッグが身近にある環境なんていうのは昔からあったわけで、ドラッグをテーマにしたヒップホップも昔からあるんだけど、表現の幅をより広げたのがCLIPSEなんだよね。ドラッグディールに足をどっぷり突っ込んでいたからなのかもしれないけれど、ドラッグを表現対象として客観的に捉えているところがCLIPSEの特徴であり、変なところでもある。


■YOUNG JEEZY - 『LET'S GET IT: THUG MOTIVATION 101』 (2005)


微熱:この 『LET'S GET IT: THUG MOTIVATION 101』はYOUNG JEEZYの1STアルバムで、それこそ200万枚以上売れたアルバムなんですけど、YOUNG JEEZY自身は結構遅咲きなアーティストで28歳にしてようやく成功をおさめています。それまでは、LIL Jという名前で活動していたり、BOYZ N DA HOODというクルーに所属して活動していたんですけど、DJ DRAMAのミックステープ『TRAP OR DIE』をキッカケにプロップスを得るようになります。

小林:2002年から2006年の最初の方までのDJ DRAMAの影響力は本当に凄かった。T.I.だけじゃなく、CLIPSEだってDJ DRAMAがミックステープを手がけているからね。

微熱:なんでDJ DRAMAにそんなに影響力があったんですかね?

小林:元々、DJ DRAMAはサウスにいるんだけどイーストコーストマナーでラップするような人たちが好きで、最初はそういうアーティストを盛り上げるDJだった。だけど、LA FACE(音楽レーベル)がブレイクするのを見て、アンダーグラウンドから離れて売れそうなラッパーをフックアップするスタンスに切り替えたんだよね。

微熱:YOUNG JEEZYをフックアップしたのもその一環ということですか。

小林:そうそう。丁度、DJ DRAMAが活動拠点としていたアトランタのアーティストを中心に取り上げてそれが上手くヒットに結びついたんだよ。

微熱:なるほど。DJ DRAMAの『TRAP OR DIE』や、YOUNG JEEZYの諸作を聴くと結構どの作品も同じカラーなので、掴みづらいイメージがあります。3枚目の『THE RECESSION』は政治色が強くなってきていますが……。

小林:「ちょっと社会のほうに目を向けてみました」って感じなんだろうね。『LET'S GET IT: THUG MOTIVATION 101』は彼のワークのなかでもトラップ色が強いんだけど、YOUNG JEEZYの特徴は感情を曲に込めるタイプのアーティストだというところです。単にドラッグをテーマにうたうだけではなくて、メンタル的なテーマをそこに織り込んでいく。

微熱:T.I.の場合は『T.I. VS T.I.P』で自己のメンタルを追求する方向に行きましたけど、それとはニュアンスが違います?

小林:YOUNG JEEZYは最初の頃から”自分の感情を曲のなかに表現したい”というタイプのラッパーなんですよ。一番最初にヒットした"Soul Surviver"でも、自分自身が白い粉を扱う売人という立場で、「神様どうか今夜は俺がムショにブチ込まれないようにしてくれ!イーエァーー!」みたいな”YOUNG JEEZY節”を聴かせる人だから、リリックの解釈云々よりも、その感情に共感できるかどうかというところで勝負している。だから、あまりリリックを掘り下げて分析する意味のある人では無いですね。もちろん、それなりのウィットやユーモアはあるんだけど。

微熱:それこそCAM'RONやCLIPSEのラップは話として聴いていても面白いけど、YOUNG JEEZYのラップは感情移入できないとそもそも聴けないということですか。

小林:キツイかもしれない。生きザマを聴かせて、感情移入させるという面だけとってみると50 CENTに近いかな。

微熱:あと、YOUNG JEEZYはアトランタのラッパーですけど、サウスの音が東海岸にも受け入れられるようになった変遷が知りたいんですよね。サウスの音のベースといったらMANNIE FRESHやNO LIMITの音になるんでしょうけど。

小林:サンプルのネタ感が強い方が東海岸にウケるんでしょうね。初期のサウスは打ち込みで、しかもささくれだっているビートじゃない? 考えようによってはミニマルで無機質なビートのほうが都会的なんだけど……。

微熱:YOUNG JEEZYはサンプリングのネタ感を作品の中で強く打ち出していったということですか。

小林:この人はラップに抜くところがたくさんあるから、ささくれ立ったビートには合わないスタイルなんですよ。メロディがある程度聴こえるようなビートじゃないとダメだから、段々東海岸にも受け入れられるようなネタ感が強くなっていったんじゃないかと思う。

微熱:確かにこの後の『THE INSPIRATION』から更にメロディアスになっていきますね。
 あと、東海岸ウケという面では、ミックステープのビートジャックも絡んでいる気もします。DJ DRAMAがサウスの中でもイーストコーストサイドのラッパーを好んでいたというところも象徴的ですけど、サウスのラッパーが東海岸のビートをジャックしていくことで、段々受け入れられていったという構図はあるんじゃないでしょうか。

小林:そうだね。あと、T.I.なんかは”ラップの聴こえの良さ”を追求していたラッパーだったから、そういうラップの創意工夫も影響しているんじゃないかな。そして、YOUNG JEEZYは圧倒的に声がカッコいい。00年代に色んなラッパーが出てきたけど、YOUNG JEEZYほど声に恵まれているラッパーもいないでしょ。LIL WAYNEは特徴的な声だけど、つぶれてしまって”良い声”というようなものではないし。

微熱:確かに今回取り上げているアーティストの中でも群を抜いて良い声しているもんなぁ。
 リスナーからしてみれば、サウスの持つミニマルな凶暴性に惹かれる人はこの『LET'S GET IT: THUG MOTIVATION 101』に惹かれるでしょうし、イーストコーストマナーに忠実なものが好きな人にとっては3枚目の『THE RECESSION』に惹かれるんでしょうね。

小林:内容もリリースを重ねるごとにストリートから身を離していくような流れになっているしね。


■T.I. - 『TRAP MUZIK』 (2003)


微熱:さっきも話に出てきましたけど、T.I.の『DOWN WITH THE KING』はDJ DRAMAがプロデュースしたもので、T.I.とビーフのあったLIL FLIPディスのために作られたミックステープですね。

小林:個人的に『DOWN WITH THE KING』は一番聴いたミックステープだけど、あまりT.I.のスタイルが反映されているものではないような気がするな。ビーフのために作られたミックステープだからアルバムみたいにリラックスしたムードじゃなくて、気合が入り過ぎているんだよね。

微熱:同じくDJ DRAMAが関わった『IN DA STREETS』は、1STアルバムである『I'M SERIOUS』のセールスが思ったより芳しくなくて、2NDの『TRAP MUZIK』までの”繋ぎ”のために作られたものです。このミックステープが、ストリートのプロップスを獲得して今のT.I.の地位を確立するキッカケになりました。
 アルバムの変遷で言うと、『I'M SERIOUS』と『TRAP MUZIK』はハスラーとしての日常を描いた作品でしたけど、『URBAN LEGEND』、『KING.』に至る過程で「自分こそがキングだ」ということをグラマラスに誇示するようになっていった。セールスやメディアへの露出で”キングオブサウス”という地位を不動のものにすると、今度は『T.I. VS T.I.P』や『PAPAER TRAIL』、『NO MERCY』で自己の内面に没入しはじめるんですね。作品を重ねる毎に初期にあった能天気さが段々失われていく。

小林:そうですね。

微熱:小林さんが昔書いていた記事で興味深かったのは、「T.I.は自分がキングだと言い続けることで周りにそれを認めさせてキングの地位を確立した」というところでした。

小林:2003年ごろはPALL WALLやSLIM THUGとかも含めてミックステープがたくさん出ていた時期だったんだけど、まだまだアンダーグラウンドなものだったし、一般的にはKANYE WESTの時代だったから動きがあまり見えなかったんだよね。そういう背景を考えると、キングだということも言いやすい時期だったのかもしれない。いままではSCARFACEがサウスのキングとして君臨していたけど、00年代になって世代が変わってくる節目でもあったし。

微熱:「俺がキングだ」と自分で言うのもすごいですけどね。

小林:それがヒップホップだからね。まずキングだと言ってみて、それをリスナーに問う。無視されたら終わりだけど、うまいこと受け入れられたらそれが事実になるわけだから。……ただ、個人的にT.I.は『KING.』で終わってしまっている感じがするな。

微熱:自分がキングだと言い続けることでラッパーとしてのT.I.はキングになることができたけども、客観的な視点を持ったT.I.Pという別人格を作り出してしまったことで、それまでキングになることをモチベーションにしていた”T.I.”というラッパー像が崩れてしまったというようなことを『T.I. VS T.I.P』の記事で小林さんが指摘されていて、なるほどなと思いました。

小林:この人がそんなことを難しく考える必要無いのにね。

微熱:まぁ本当にキングになってしまってラップで扱うテーマがなくなってしまったんでしょうね。

小林:何度も捕まっているから、これから刑務所から出てきても、あきれている人のほうが多そうだし……。レコード会社も、あれだけ儲けさせてもらったわけだから、今後のセールスがかなり気がかりだろうし、もうギャルにウケるネタをメインにマジメにラップするしか道は無いんじゃないかな。というか、そっちの方向を勧められてしまうかもね。
 LIL WAYNEは銃を持っていて捕まって、ムショに入ったのに、出てきて数ヶ月後に出した"That's What They Call Me"のサビで、「あの一件以来、俺は自分の銃はオフクロの名前の中にいれている」と繰り返している。「”LIL WAYNEのオフクロの名前”って……? つまり、すぐにはわからないところに隠してあるんだな!」と、リスナーの耳を思いきりひきつけて、面白おかしく聴かせられるようなネタに昇華できるけど、T.I.はそういうキャラじゃないから。「I'M SERIOUS」な人だから仕方ないんだろうけど。

微熱:シリアスなキャラ設定が足を引っ張っているという……。

小林:『T.I. VS T.I.P』は相当きつい状況をあらわしているでしょ。ただ、一度刑務所から出てきたリリースした『PAPER TRAIL』で持ち直してひとつネタができたのが救いだよね。

微熱:『PAPER TRAIL』の良さって何なんでしょう? T.I.の作品のなかでは一際異色というか、ポップミュージックの感触すら感じさせるバリエーション豊かなアルバムではありますけど。

小林:内容も一番トラップ臭くはないところで敢えてやっているよね。自分の気持ちの整理をテーマにしているアルバムだから刑務所に入っていなかったら『PAPER TRAIL』は絶対にできていない。そういう意味では、刑務所に入ったおかげで本当に良い作品が出来たと思うよ。

微熱:この時期でしか作れない作品だし、リスナーも最も興味が惹かれる内容ですからね。
 ……あと、T.I.はイーストコースト主流だったヒップホップをサウスの流れに切り替えるキッカケになったアーティストですよね。イーストコーストの視点で見ても上手いラップであったり、あらゆるヒップホップ雑誌の表紙になったり。

小林:この人はルックスも優れているから。

微熱:まぁそういう部分も含めて、T.I.が徐々にヒップホップシーンにサウスの価値観を根付かせたが故に、この後のLIL WAYNEやGUCCI MANEの評価に繋がったところもあると思うんですよ。

小林:T.I.以前にもSCARFACEやBUN Bあたりも評価されていたけど、彼らのラップこそイーストコーストマナーにとても近いからね。更にT.I.はセールス面でも彼らと比較にならないほど売っているところを考えても、これまでサウスのラッパーでこの地位まで昇りつめた人はいなかったよね。

微熱:808サウンドをヒップホップに根付かせた張本人とも言えると思うんです。LIL JONも売れていましたけど……。

小林:あれはもうヒップホップどうこうではないところまでいっちゃってるからね。まぁT.I.は全てにおいて洗練されていますよ。ビートの加工のされ方も含めて。
 例えば、”SNOOP DOGGの『DOGGUMENTARY』のジャケの椅子とT.I.の『NO MERCY』のシングルのジャケの椅子の違いを並べて考えてみるとわかるけど、T.I.は本当にああいう玉座にわかりやすく固執する人なんだよね。でも、西洋の考え方だとああいう椅子は”神のための椅子”なんですよ。座ってしまうとただの”王の椅子”になってしまう。SNOOP DOGGのジャケ(を考えついた人)はそれをわかっているからあの椅子に誰も座らせていないし、わかる人にはその意味がわかって”王なんかよりも上の審級にあるもの”をあの椅子のジャケットに幻視するんです。

微熱:その話をきくと、いまのT.I.の立ち位置が限界に来ているということも本当によくわかります。SNOOP DOGGはキャリアも本当に長いですからね。

小林:それこそSNOOP DOGGは出だしがどん底で「刑務所から出れないんじゃないか?」という感じだったけど、そこからいままで一度も刑務所には入っていない。それに引き換えT.I.はもう4回も刑務所に入っている。ジャケットの椅子ひとつ取って見ても、そのアーティストの思慮の深さが垣間見れるんだよね。

微熱:逆に王座に固執し続けたからこそ短いキャリアの中でサウスの音楽性を認めさせるほどの存在になれたというところは否定できないですけどね。

小林:そうね。でも、彼は”T.I.”であり続けるためにはこれからも王座に固執し続けなければならない。


■LIL WAYNE - 『THA CARTER II』 (2005)


微熱:ラッパーって転換期があると思うんですよ。GUCCI MANEもある時期から突然ミックステープでのラップが評価されはじめましたし、CAM'RONも『PURPLE HAZE』でスタイルを確立しました。LIL WAYNEの転換期としての作品が『THA CARTER II』だと思うんです。LIL WAYNEはHOT BOYS(かつてLIL WAYNEが所属していたグループ)の頃からかなり売れているラッパーでしたし、それこそ彼の1STアルバムである『BLOCK IS HOT』は100万枚以上売れていますけど、『THA CARTER II』や『DEDICATION 2』を発表した時期の前後でファン層が全く異なると思うんですよね。

小林:『THE PREFIX』はその『THE CARTER II』の1年前に出ているミックステープで、JAY-Zの『BLACK ALBUM』のビートをジャックしたものだけど、あの頃から意図的にラップスタイルを変えているんですよ。

微熱:JAY-Zのアルバムをジャックしたということ自体が、イーストコーストの偏見を打ち破る意図があったということですね。

小林:LIL WAYNEが偉いのは、『THE PREFIX』で「サウスをバカにするな」と言っただけではなく、そこからちゃんと努力してラップスタイルを変えていったというところだよね。個人的には『THE PREFIX』以前のLIL WAYNEにはピンと来ない。というか、CASH MONEYの中で特に彼だけがすごいという風に思ったことは正直一度もなかった。

微熱:そういう人は多いと思いますよ。いまでこそ『LIGHTS OUT』が評価されたりしていますけど、それも『THA CARTER II』や『DEDICATION 2』でイメージを一変させて、ラップの実力を認めさせたが故のものでしょうし。ただ、それまでのCASH MONEY軍団の一員だった頃もちゃんとしたキャリアがあったわけで、そのイメージを覆して全く新しいラッパーイメージを作り出すのって本当に大変だったんじゃないかな。

小林:もう全く別人だもんね。

微熱:ただ、『DEDICATION 2』はLIL WAYNEの転換点となった作品には違いないんでしょうけど、かなりとっちらかっているので良さが伝わりづらい……。

小林:それは、LIL WAYNEがスタイルを変えていこうと模索している時期のものだし、何より2006年のミックステープだから商業レーベルから出ているアルバムと比較するのは酷だよ。ただ、『THE PREFIX』と比べるとだいぶ整理されてきている。

微熱:これまで取り上げてきたラッパー達はミックステープをメジャーディールを勝ち取るための、アルバムの前哨戦の位置づけとして扱っているんですけど、LIL WAYNEの『DEDICATION 2』はミックステープなのにビルボードの69位まで行っているんです。勿論、LIL WAYNEの正規アルバムに比べたらそんなに売れていないですけど、それでもミックステープの”価値”が正規アルバムに追いついてきています。

小林:これまで取り上げてきたラッパーのなかでもLIL WAYNEは圧倒的にフリースタイルが上手いから。即興で作品がつくれてしまうところも関係しているかもね。

微熱:”作品をつくるためにラップをする”のではなくて、日常の延長線でラップをしているものを集めたら作品になってしまうんですよね。何よりその中で生まれるラフさが魅力になっている。LIL WAYNEはそういうミックステープの魅力や価値観をリスナーに植えつけて、いまのミックステープムーブメントを作り上げた張本人と言ってもいいと思います。
 あと、イーストコーストへの意識の強さという面では、NASに影響を受けているとも言われますよね? LIL WAYNEの曲はフリースタイルの一発録りなので、NASのリリシズムから影響を受けているというのが意外なんですけど。

小林:NASになってもしょうがないし、NASになろうともしてないでしょ。ただ、LIL WAYNEは言葉選びのヒントをNASから得ている。元々はノリだけでラップを聴かせていたんだけど、言葉でイーストコーストのリスナーを認めさせる力を身につけていったんだよね。

微熱:でもシロップ飲んでフラフラになりながら、妄想なんだかなんだかよくわかない有象無象についてラップするのがLIL WAYNEのスタイルの特徴だと思うんですけど。

小林:酩酊状態のラップばかりしていたのは『THA CARTER III』のちょっと前くらいまでかな。保護観察の関係かもしれないけど、最近はそんな酩酊状態のラップではない。『THA CARTER III』には少しそういう曲があるけどね。

微熱:いままでドラッグでフラフラになりながらラップしているようなアーティストっていなかったですよね。

小林:そうだね。ドラッグをやってハイになるということをテーマにラップしている人はいままでたくさんいたけど、明らかにドラッグをやりながらラップしていることがわかるようなラッパーはいなかった。もしかすると、LIL WAYNEにとってはシロップを飲んでいるときだけが本音でラップをできるのかもしれない。言葉で遊んでいるようなラップは寧ろシラフの状態な感じがするな。例えば、『THA CARTER III』の一番最後に入っている"Misunderstood"ではおそらくかなりグダグダになった状態なのにもかかわらず”LIL WAYNEとDwayne Michael Carter, Jr(本名)とはイコールで結ばれるべきものなのか”という問題点を諸々の社会問題を絡めて検討している。敢えて意図的にシラフではなく、酩酊状態で録ってみたのかもしれないけどストレートな表現ばかり。
 それが出所後には、さっき挙げた”That's What They Call Me"の例やニッキーとの"Roman's Revenge 2.0"での"I like a big wet pussy with a fork and a spoon"……これは意味的にはそれくらい大好物ってことなんだろうけど、出所直後の曲だからまだかなりシラフな状態で録ったんじゃないかと思ってみたり……。

微熱:なるほど。ラップにLIL WAYNEのリリシズムが出ているときはシラフだってことですか。
LIL WAYNEって一時期客演王と呼ばれるくらい色んなアーティストのゲストに参加したり、曲もスタジオにフラっと入ったかと思ったら一発で録り終えて、すぐまた別のスタジオでラップするようなところも独特なスタイルとしてよく知られていますよね。そういう流れの速い曲作りの中でリリックやラップスタイルの着想が沸いて、しかもそれを次から次へと色んな曲で実験してしまえるところが彼のラッパーとしての幅を広げているんじゃないかと思うんですよ。

小林:この人の場合は客演がかなりプラスに働いているよね。例えば、KANYE WESTなんて客演はどう聴いてもやっつけなのがあるけれど、LIL WAYNEは客演の多さの割にあまり手を抜いていない。というか、雑だとしても、フリースタイルな感触が確かに残っている。
 リリックもすごく特徴的なものがあったりするんですよ。例えば、女の子との絡みをテーマにしたラップでも、自分の一人称視点ではなくて、第3者の視点で自分と女の子とのやり取りを描いていて、しかもそのリリックを文字に起こしてみるとドラマの台詞のト書きみたいになっていたりする。こういうラップの着想は、あらゆる曲の中で実験的に色々やってみて培ってきたものなんです。『THA CARTER III』にはそういうミックステープや客演を経た成果が詰まっている。
 
微熱:『THA CARTER II』はイーストコーストに対して挑戦していく姿勢を出していった作品だったけど、それが『THA CARTER III』まで来ると”表現”の仕方を模索してラップやリリックの深みを出す方向に行っているんですね。

小林:”6 FOOT 7 FOOT”では“real G's move in silence like lasagna”なんだかワケのわからないラインをヴァースの最後のほうに持ってきている。lasagnaのgは発音しない、つまりsilenceだから「リアルな奴らは黙って行動する」ってことなんだろうね。一回聴いてすぐわかるラインと、何度も聴いてさらに頭を働かさなくては意味がわからないラインとを混在させている。今回取り上げたアーティストのなかでも一番リリックを練りこんで、ひらめきを最大限に活かして”表現”というものを模索している人ですね。

微熱:シロップで酩酊している状態でラップをしているようなイメージが強いので、この中で一番ラップというものを考えているラッパーだというのが意外ですよね。

小林:言葉だけではなくて、ラップの聴こえ方から、リリックの構成まで全てを考えていますからね。しかもリリックを書かないで即興一発録りだというから本当に天才ですよ。
 あと、EMINEMは最近までドラッグをやっていて、こないだの『RECOVERY』がドラッグ抜きでつくったアルバムだったけど、楽曲そのものは完全に魅力にかけるものばかりだった反面、ライムだけ取り出してみると前作からまだまだ進化しているところが見受けられる。で、それを聴いたLIL WAYNEがもうひとひねりさせてライムを書いたと思しきものもあるから、ドラッグを介在させて、EMINEMとLIL WAYNEを比較して考えてみるのも面白いかもしれない。

微熱:EMINEMも含めて”本音を出す”という部分だとドラッグは良い方向に作用するけど、表現を進化させるという部分で考えるとドラッグは抜いた方がいいということですね。まぁ当たり前といえば当たり前ですけど。


■まとめ

微熱:今回取り上げたアーティスト達はそれぞれがそれなりにストリートのプロップスを得て知名度を上げてきた人たちです。ただ、彼ら00年代のラッパーが持つ”ストリート感”と90年代のラッパーが持つ”ストリート感”ってどうも印象が違うんですね。90年代のラッパーはそれこそNASやBIGGIEを想像してもらえればわかるように”ストリート=コミュニティ”の図式があって、そのコミュニティに根ざして反体制的なメッセージであったり、コミュニティに起こるドラマを描いていたんですけど、今回取り上げたようなラッパーが表現しているのはストリートでのハスリングであったり、ストリートから成り上がる自分自身なんですね。彼らが描く”ストリート”は自分自身を表現するための単なる”場”になってしまっているんです。

小林:しかも、インターネットがその”ストリート”に取って代わるものになってきている。”ラッパーが自分自身のことを表現するようになってきている”というけども、インターネットで全然違う地域に住む人が共感できる内容のラップというものが”コミュニティのドラマ”ではなくて”ラッパー個人のドラマ”に変わってきているという見方もできるね。そのわかりやすい例がODD FUTUREであったり、LIL Bであったりするわけだしね。

微熱:インターネットがヒップホップを発信する場として主流になってきているし、ヒップホップ愛好家が集うコミュニティとしても成立しているという点からしてもストリートの意味そのものが変容してきています。

小林:僕が2002年にアメリカにいたときに、インターネットでミックステープがアップロードされているのを見て、店にそのミックステープを買いに行ったらまだ売っていなくて、しばらく待ってから店頭にそのミックステープが並んだんだけど、もうその頃から徐々にストリートというものが変わりつつあったんだと思うんですよ。

微熱:ビートの変遷の話もしましたけど、ラップが扱うテーマも変わってきているし、それだけでなくストリートやコミュニティの意味合いまで変わってきている。そもそも、00年代のヒップホップは90年代のヒップホップの価値観を崩すような動きをずっとしていたわけです。サウスのアーティスト達がイーストコーストの価値観にも通じるような表現を模索してきたような動きであったり、50 CENTやCAM'RONのようにヒップホップゲームのルールやスタイルを一新して覆していくような動きであったり。

小林:そうだね。だからヒップホップメディアもこういうものをきちんと取り上げて、評価しなければいけない。

微熱:現在のヒップホップは90年代のヒップホップの価値観を打ち破ってきた00年代ヒップホップの延長線にあります。だから、90年代ヒップホップばかり再評価して、00年代ヒップホップに対する評価をきちんと行わないのは、現在のヒップホップを否定して新しいリスナーを排除しているのと同じだと思うんです。小林さんとのこの対談を通して、少しでも00年代ヒップホップや現在のヒップホップの背景や動きに興味を持ってくれる人いたら良いなと思いますね。

5 comments:

benzeezy said...

dope.

宏之 said...
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samuraicosmetick said...

nice!!

kobori said...

とても面白い対談でした。
長文なので打ち込むだけで大変だとは思いますが、ぜひ次回も読んでみたいです。


一つ質問があるのですが、まとめで「90年代と00年代の"ストリート感"が違う」ことについて、なぜ変化したと思われますか?
記事からは、90年代の”ストリート=コミュニティ”の図式が崩れていったことが一番の理由なのかと感じましたが、
それが単なる自然な流れなのか、それとも何か契機があって起こったことなのでしょうか。

微熱 said...

皆さん>
読んで頂き&コメント頂き、ありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。

koboriさん>
実際にUSで生活していたり実体験しているわけではないので曖昧な答えになってしまいますが、1つは社会の変容(例えば、日本でも特に都会だと個々のコミュニケーションが無くなって個人主義になっていくような)が考えられるのと、もう1つは90年代黄金期のヒップホップマーケットと比べてより世界的規模でマーケットが開けるようになったことがキッカケではないかと思います。

つまりストリート(コミュニティ)に根ざし、ストリート(コミュニティ)に向かって発していたメッセージがヒップホップがワールドワイドに展開していくことで変わっていって、「ストリートにいる」ということが単なる"リアルなヒップホップ"の証明に過ぎなくなっていったのではないかと。裏づけはありませんw


という意味では、契機はあると思いますし、それを証明するアーティストや作品もあるでしょうけど、自然な流れとも言えるのではないでしょうか。