Fuck 2006
□ 2006年 上位10枚
Justin Timberlake
"FutureSex/LoveSounds"
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TKに代表されるように、イニシャルのアルファベット二文字だけで誰のことか通じるようになると大物の中の大物という感があるけれど、脅威のペースでその領域にまで辿り着いた、すべてを手にしたJTが歌う愛と愛と愛の世界。勝ち組ピラミッドの頂点から愛をこめて。容赦なくNeptunesを切り捨て、Will.I.AmにT.I.にThree 6 Mafiaにと考え得る旬の人々をすべて従わせ、スランプ気味だった稀代の天才Timbalandをも完璧に自分色にコントロールして復活させるなどまさにやりたい放題。勝者の余裕などどこにもないガツガツした姿には平伏すしかない。
Lupe Fiasco
"Food & Liquor"
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カニエのけしかけたナードアタックはメンタリティの部分においてのみの非ギャングスタな態度でしかなかったけれど、そのこじあけられた穴に特攻をかけるLupeたんとその一味のような追随者にもなると、音の部分でもおよそ黒人音楽的な芸術性を求めていないまったく新しいナードさ。このヒップホップの泥臭さの一切を排除したようなセンスはBig Dadaが得意とする「ヒップホップを土人の音楽だと思っている人たちのために俺たちが最高にクールなヒップホップをセレクトしてやるよ」のセレクションにこそフィットするもののはず。このスタイルでありながらメジャーで通用してしまうところがカニエが跋扈する時代から一歩抜け出た人らしい。なにせ、トライブの"Midnight Marauders"を聴いたこともなければ聴く気もないと言うのだから色々すごい。新世代。
The Roots
"Game Theory"
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This is ヤバイ
Gnarls Barkley
"St. Elsewhere"
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凄まじくアンフレンドリーでアンキャッチーで華がないせいでその斬新さが浮き彫りになりにくいGorillazの"Demon Days"から、またも華のないDanger Doomを経て、なおその本質が理解できない愚民ども(俺みたいな)のためにCee-Loが全面的に華やかでキャッチーなポップさを爆発させ、判りやすく己の異才ぶりを見せ付けるDanger Mouseの世界第三幕は、Danger Mouseのナードさが、放っておいても黒い悪臭を放つCee-Loの凄みに近づけなかった愚民どもにもCee-Loの異形ぶりを見せ付けることを可能にした、両者ともにひとつの妥協もせずにぶちかまし放題しっぱなしでいて両者ともに俗世間に歩み寄る精巧な共犯関係。
Spank Rock
"YoYoYoYoYo"
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This is ヤバイ
E-40
"My Ghetto Report Card"
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DJ ShadowもMC Hammerも吸い寄せるHyphyの魔。Rick RockとLil Jonの頂上対決に煮えたぎるキワモノラッパーが次々出現するビューティーオブセレブレーションオブハイフィー。脳みそなんか理解するのに逆に不要だ。捨ててしまえ。
JME
"Derkhead"
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他のグライムアーティストがDipsetマナーのヒップホップに現を抜かしている間に、グライムでありながらポピュラリティを得るにはどうすればいいかを模索する稀有な心意気が評価されてか、Planet μのコンピに曲を入れてもらったりSkreamのアルバムに参加させてもらったり外部でも少しばかり暗躍できた06年のIndependent as Fuckの体現者。
機材がなければ身近にあるものなんででも曲を作ればいい(携帯電話→マリオペイント→ゲームボーイカメラ→Fruity Loopsという経緯らしい)という健全な発想のもとDIY病をこじらせてしまい、トラック、リリック、レーベル運営、流通、ジャケのデザインからTシャツ作り、ブログ更新、wikipedia/myspace×5を全部自分で編集するなど、その「やれることはなんでもやりたい」自家栽培ぶりは留まることを知らず、ついにはなぜかグライムアーティストの格闘ゲームをM.U.G.E.Nで作って配布するほどに。世界広しといえど、一年にアルバム3枚とゲーム1本を作ったアーティストはきっとこの人だけだろう。
ECD
"Crystal Voyager"
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同じ06年を生きる46歳の人は、力強く現状を笑い飛ばす。
「自分たちが存在することがいやがらせになればいい」とかほざいて、不愉快な物事を周りの人たちへ愚痴り散らすスチャダラパーが大嫌いなのだけど、同じ中年ラッパーのECDの作品を聴いているとスチャ作品の何が不愉快なのか実に明確になってくる。つまりこの文章と一緒で、不愉快なことを「不愉快だ!」と表現されても、周りが不愉快になるだけ。サラリーマンの酒場の愚痴とどこが違う? その点で、同じ「不愉快」を抱え込んでいるはずのECDの視点のブレ無さというか、他者との距離感には非常に説得力がある。808と303で作り上げた屈折しまくったビートにその悲しくも自嘲気味なラップがのると、どうしようもなさ感が倍増されて「もうどうでもいいやー」と妙な納得ができる。
El Nino
"People Called El Neetpia"
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映像的かつ断片的にマッドな景色ばかりが目の前を通り過ぎていくFreezのラップは、実はイルスラングより前からそんな感じだった。イルスラングにしろランブキャンプにしろ、他のラッパーが「つなぎ」になっていたのか、はたまたビートが澄んでいたせいか、まだ地に足が着いていた。起床前の眠りの浅いころ見る夢のような情景が以前までのものだとしたら、テラテラユラユラつかみどころのないOlive Oilのトラックに蛇のようにズブズブと飲み込まれて一体化されたこのラップは、寝苦しい夜の深い眠りの淵に見る悪夢のようなものだろう。そういった意味で、ブッダやシンクタンク的として本作をなぞらえるよりは、"Talkin' Cheap"のようなボンクラ学生が真昼に見た夢のつづきのものとして見なした方が説得力がある。
Swanky Swipe
"Bunks Marmalade"
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個人的にもロクでもなかった06年を見事に表現している。気を許せば「ゲロ」「クソ」「ホモ」「ビッチ」が飛び出してくる最下流の日本語ラップ。03年にMSCが表現した「ストリート」は、この作品では「バビロン」として、いやーな感じで3年分進化している。MSCほど将来を直視できているわけではなく、目の前の「現状」に喘いでいるBESのラップは生々しく切羽詰っている。
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