Monday, November 14, 2011

Simi Lab - Page 1 : ANATOMY OF INSANE



自ら「ヒューストンのヒップホップに影響を受けた」と公言するA$AP Rockyは、様々なラッパーと比較されるようにNYが出自ながらもイーストコーストのマナーに縛られず、西海岸・中部・南部のあらゆるスタイルを吸収して体現する。なかなか決め手となる作品が無かった"クラウドラップ"という括りで見ても、Clams Casinoを中心に組まれたミックステープ『LiveLoveA$AP』はその決定打と言い切ってしまえるほどのクオリティを獲得し、A$AP Rockyは爆発的なプロップスを勝ち得たうえで名実共に2011年の顔となった。

しかし、「マイノリティがつくる音楽の独自性」というテーマでいえば、マッチョイズムが柱になっているヒップホップ・ジャンルの中であえて『I'm Gay』と銘打った作品をリリースしたり、有料リリースした作品をファンのために無料DL公開したり、ヒップホップマナーに従わないビートにラップしてみせたりしながらLil Bが挑戦しつづけているけども、こと楽曲の"独自性"という面ではLil Bほど積極的にビートやラップのあり方を模索しているアーティストはいないのかもしれない。件のA$AP Rockyにしても、Odd Futureにしても、その存在以上に楽曲のスタイル(ラップスタイルやビート)が例に無いほど斬新かと問われれば、あらゆるラッパーからの影響が垣間見れるだけにどうしても疑問符が付く。(Tyler, the Creatorのラップがどんなものに影響を受けているかについては"OMAG! OFWGKTA!!!"に詳しい)

こういった海外の旬なラッパーの持つ楽曲そのものを超越した"面白さ"はSimi Labの魅力にも通じるところがある。以下は各メディアのSimi Labインタビュー。

<ele-kingインタビュー>
http://www.dommune.com/ele-king/features/interview/001545/
<Queticインタビュー>
http://www.qetic.jp/?p=74136
インタビューでも度々話題にあがる"Walk Man"は↓の動画を参照のこと。




ひとりひとりが自分達のクルーの実態を把握してないというところ、一見外人のラッパー集団に見えるが実は全くネイティブな日本人だというところ、クルーの関係性や身体的な特徴もふくめてSimi Labは非常にファジーな集団だ。更に↓の動画を観てもらえればわかるとおり、SWAG系のラッパー達が"自分のラップ(スキル)は特別だ"というところにプライドを置いていることに対して、"自分たちの存在はUncommonだ"というスキル以上にファジーな部分に軸があるところが興味深い。




Lil BやA$AP達が持つ"とらえどころのない魅力"は、彼らがマイノリティであることに自覚的で、それをあらゆる手段で表現しようとしているからこそ生まれてくるように思える。楽曲だけでなく、ブログやTumblrやYouTubeやTwitterに垂れ流され断片的に山積みされていく情報が、アーティストの"世間からズレた感覚"や、なにか"普通じゃない感覚"を生み出すとき、それはリスナーにとって非常に刺激的なスパイスをもたらす。Wu-Tang Clanがはじめて世に出てきた時代と比べれば、アーティストにとってはより簡易に、リスナーにとってはより視覚的に。

Simi Labの楽曲は聴く人が聴けば、単なる90年代後半~00年代前半に数多くリリースされていたローファイなヒップホップの焼き直しに聴こえるだろう。しかも、そこでラップされている内容には彼ら個人個人の"イルで不敵な視点"以上のものは無い。しかし、彼らの作品は決してそれ単体で聴くものではなく、YouTubeに流れる映像、ネット上の情報やイメージにまず触れてみることこそが重要なのだと思う。それらにあらかじめ触れていてこそ、『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』での彼らのファジーな存在感が濃くなるのだから。